ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4

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概要

日本結晶学会誌Vol61No4

ゼオライトの粉末X線構造解析と解析ソフトウェア高度化への貢献図8ハイブリッド化合物KCS-4の(a)[010]と(b)[010]方向から見た結晶構造,および(c)[100]方向から見たアルミノシリケート層.(Crystal structure ofhybrid compound KCS-4 viewed from(a)[010]and(b)[010]directions, and(c)aluminosilicate layerviewed from[100]direction.)図9ハイブリッド層状化合物KCS-5の結晶構造;(a)[001]および(b)[100]方向から見た多面体モデル,(c)[010]方向から見たアルミノシリケート層.(Crystal structure of hybrid layered compound KCS-5;(a)polyhedral model viewed along[001]and(b)[100]directions,(c)aluminosilicate layer viewedalong[010]direction.)ここまでSi原子2つで有機部位を挟み込んだ架橋型有機シランの例を示したが,フェニル基にSi原子が1個だけ付いている有機シランPTESを用いた場合は,Na+イオンとの組み合わせにより新規な層状化合物KCS-5(Pca2 1,a=13.98 A,b=11.26 A,c=9.22 A,|Na 4(C 2H 5OH)0.28|・[Si 8Al 4O 20(C 6H 5)8])28)が得られた.先述のRUB-15と同様にSOD型ゼオライトを半分に割ったような層状の骨格トポロジーを有するが,レイヤー表面の≡Si-OH部位が≡Si-C 6H 5に置き換わった構造となっている.層間はフェニル基で覆われているが,小さな隙間があり擬似的なナノ細孔を形成している.KCS-5は窒素をほとんど吸着しないが,親油性を示しベンゼンを選択的に吸着する.また予想外に,KCS-5は500℃に加熱しても構造劣化がほとんど起こらず高い熱安定性を示す.KCSの構造の共通点は,無機レイヤーと有機レイヤーが積層していることである.よってKCSの結晶化機構については,(i)有機シランの加水分解ではSi原子周りがT 3 Si種[(OH)3Si-R]となって親水部(-OH)および疎水部(-R)ができ,(ii)原料の母ゲル中で架橋型では必然的に親水部同士が隣接して並び,PTESでは親水部と疎水部がそれぞれ向きを揃えることで,LB(Langmuir-Blodgett)膜を作るかのように分子薄膜の累積が起きる,と推測している.新規構造が粉末構造解析で解明されたことで,合成機構や吸着特性の理解が進んだことから,材料開発における結晶構造解析の重要性を改めて認識することができた.解析の面では,ユニットセルを跨がって原子が連結している無機の構造について,仮想分子の概念を取り入れることで実空間法が十分適用できることを示せた.幸い筆者が扱う物質では,固体NMRが仮想分子の設定に非常に役立ち,期待以上の結果に繋がった.実空間法は既に有機化合物の主要な解析法となっているが,結晶性日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)の乏しい無機化合物でも,EXAFS測定や分光測定などで局所構造がわかれば,実空間法でうまくいく可能性は十分あると思われる.2.3新規アルミノシリケートゼオライトYNU-5近年の新規骨格を有するゼオライト合成では,有機構造規定剤(Organic Structure Directing Agent:OSDA)とシリカ(アルミナ)源からなる水熱合成が主流である.とくにOSDAの分子設計は大きな細孔を持った骨格構造を作るために最も重要であるとされる.ケイ素12員環以上の細孔を持つゼオライトは,触媒や反応場としてのニーズが高く,盛んに合成研究が試みられている.しかしその多くは骨格が高シリカ組成であるため活性点が少なく,OSDAの分子が大きくなるにつれ合成コストが上昇するなどの問題から,殆ど実用化に至っていない.共同研究者の中澤らは,触媒利用を念頭に既存のあらゆる合成法の良いところを組み合わせ,新規なアルミノシリケートゼオライト(化合物名YNU-5,Cmmm,a=18.11 A,b=31.74 A,c=12.58 A)の合成に成功した.33)工業用FAU型ゼオライトとコロイダルシリカをSi-Al源に,OSDAには4級アミンのdimethyldipropylammoniumを用いることで低コストを実現している.これにNaOH,KOH,H 2Oを加えた混合ゲルを調製し水熱条件下で反応をさせることでYNU-5は得られる.焼成してOSDAを結晶内(細孔内)から除去し,さらに200℃で加熱脱水した試料を用いて粉末XRD測定を行った.結果,ゼオライトとしてはかなり高い結晶性を有しており,またArガス吸着測定からは8-ringおよび12-ring相当の2つの細孔径分布をもつことがわかったため,どんな構造であるか大きな興味がもたれた.格子体積が7,200 A 3を超えゼオライト構造の中では28番目に大きいため,粉末データだけから解を得るのは困難かと思われた.しかし,YNU-5と近い合成条件でいくつかの異なる219