ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4
- ページ
- 22/68
このページは 日本結晶学会誌Vol61No4 の電子ブックに掲載されている22ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol61No4 の電子ブックに掲載されている22ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol61No4
池田拓史図6ハイブリッドナノ多孔体KCS-2の(a)[001]および(b)[110]方向から見た結晶構造.(Structural modelsofhybridnanoporousmaterialKCS-2viewedalong(a)[001]and(b)[110]directions.)物ECSシリーズを報告した.23)ECSの中にはゼオライトの骨格トポロジーと類似する化合物があり,構造規則性を有するハイブリッド多孔体の合成の可能性を示した.われわれは,Eniの合成法を改良して2種類の有機シランを用い,その加水分解の制御とアルカリ源との組み合わせを検討することで新規化合物の探索を試みている.そして2つのSi原子をフェニレン基で架橋した構造をもつ1,4-bis(triethoxysilyl)benzene(BTEB)と四面体構造であるtetraethylorthosilicate(TEOS)の2種類の有機シランと,Al 2O 3,NaOHを加えた水熱反応から,新規なハイブリッド多孔体(化合物名KCS-2,P6/m,a=14.10 A,c=14.61 A,|Na 12(H 2O)18|・[Si 18Al 12O 48(OH)12(C 6H 4)6])の合成に成功した(図6).24)-26)KCS-2の特徴は,Si-Al-Oからなる骨格レイヤーとフェニレン基のレイヤーが交互に積層し,それを貫くように直径0.73 nmの一次元ナノ細孔が形成されていることにある(図6a).またレイヤー骨格内部には,先にも述べたQ 2 Si種が含まれている(図6b).その結果,一次元細孔の内壁部は親水部と疎水部が交互に並んだ状態になり両親媒性を示す.KCS-2の合成に続き,有機シランとアルカリ金属イオンの組み合わせを拡張し,ビフェニレン基を有する4,4’-bis(triethoxysilyl)-1,1’-biphenyl(BTEbP)やSi原子を1つだけもつphenyltriethoxysilane(PTES)などをSi源に用いたところ,複数の新規ハイブリッド化合物の合成にも成功した.27),28)これらの結晶構造は,局所構造に基づく仮想フラグメント分子の充填構造を実空間法で解析することにより決定された.具体的には,まず固体NMR分析で試料に含まれる全元素についての局所構造を解析し,フラグメント分子の構造を設定した.続いて元素分析と真密度の測定から組成を推定し,ユニットセルに導入する仮想分子の数を定めた.次に粉末X線回折データを使って指数付けで求めたユニットセルに,局所構造から導かれる29仮想分子を導入し,Parallel Tempering法)を使って単位胞内の仮想分子の座標と配向を決定することで初期構造モデルを求めた.実のところ,有機部位が多量に含まれ骨格が柔らかいことから結晶性があまり高くなく,図7ハイブリッドナノ多孔体KCS-3の結晶構造;[010]方向から見た多面体モデル(a)とその拡大図(b)および[001]方向から見たアルミノシリケート層(c)(Crystal structure of hybrid nanoporous materialKCS-3;(a)Polyhedral model viewed along[010]direction, and(b)its magnified image, and(c)aluminosilicate layer viewed along[001]direction.)ほかの解析法ではまったく歯が立たず,試行錯誤の末この方法を採用するに至った.KCS-3 27)はBTEbP,Al 2O 3およびNaの組み合わせで得られたもので,空間群I4 1/amd,格子定数a=10.22 A,c=71.37 Aとc軸がかなり大きく,単位胞中の組成は|Na 32(H 2O)75.6|・[Si 48Al 32O 128(OH)32(C 12H 8)16]で表され,Si-Al-Oの骨格レイヤーがc軸方向に沿って4層積み重なっている(図7a).骨格レイヤーは,KCS-2と同じくQ 2Si種を含み,c軸方向から見るとSi(Al)の8-ringのミクロ孔を有している(図7b,c).隣接するアルミノシリケート層同士がビフェニレン基(-(C 6H 4)2-)で架橋され,全体として三次元のナノ多孔体構造を形成している.KCS-2と同じく両親媒性の吸着能を有するが,有効細孔径が若干大きいことから,メシチレンより大きな分子の出し入れが可能であると考えられる.KCS-4(P2 1/c,a=10.05 A,b=9.31 A,c=5.04 A,β=97.03°,Si 3.76Al 0.24Li 8H 0.24O 8(OH)4.24(C 6H 4)1.88)27)はBETB,Al 2O 3とLiの組み合わせで得られた化合物で,Li+イオンが4個の酸素原子と配位している(図8a).つまりLi+イオンは,BETBが加水分解してできるO 3Si-(C 6H 4)-SiO 3部位同士を繋ぐ接着剤的な役割をしていると考えられる.このような4配位Liを骨格に含むシリケートはlithosilicateとして知られており,6 Li(7 Li)-NMRや粉末中性子回折によってその存在が確認されている.Silinaite 30)やRUB-29 31),部分的にLiO 4を含んだMFI型ゼオライト32)などが合成例として報告されている.KCS-4はハイブリット化したlithosilicateの最初の例となる.明確な細孔構造を持たないため窒素吸着能を示さないが,予想外に水吸着能を示す.隣接するフェニレン基の間に隙間があり,そこを水分子が通り抜けてLi+イオンに水和するように取り込まれていると考えられる(図8b,c).218日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)