ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4

ページ
21/68

このページは 日本結晶学会誌Vol61No4 の電子ブックに掲載されている21ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol61No4

ゼオライトの粉末X線構造解析と解析ソフトウェア高度化への貢献る含水層状ケイ酸塩(化合物名Na-RUB-18)は,アミン分子のインターカレーションで得られる中間体を焼成することでRWR型ゼオライト(化合物名RUB-24,Si 32O 64)に変換できることが報告されていた.14),15)だが当時まだこの構造変換のための必要条件は不明確で,中間体の構造もdisorderが著しく明らかになっていなかった.試行錯誤の結果,酸処理や4級アミンのインターカレーションなど行い,複数の構造の異なる中間体を経由してRUB-24に変換可能なことを明らかにした.特にNa-RUB-18を直接酢酸で酸処理を行うことで結晶性の良い中間体(化合物名Ac-RUB-18,Si 32O 56(OH)16・4.7(CH 3COOH))が得られ,最後に焼成してRUB-24を得る最短ルートを見出した.16),17)得られたすべての中間体の構造は,結晶学的に18は新規であったため,指数付けから始め,Le Bail法)による全回折パターン分解,直接法による初期構造モデル19の導出,MEM/Rietveld法)によるモデル修正および構造精密化の順で解析を行い構造決定した.この結果から,ゼオライト化には(i)層間に水を含まないこと,(ii)隣接するシラノール基の原子間距離O-Oが2.6 A未満であること,(iii)層間内の分子の脱離(燃焼)温度がシラノール基の脱水縮合する温度より高いこと,の3つが必要条件であることがわかった.(ii)については隣接するシラノール基においてO-H…Oの水素結合が形成されていて,固体1H-NMRにて確認することができる.(i),(iii)は隣接するシリケート層の並びを揃え細孔構造を形成する鋳型として,層間に熱安定性の良い小さな分子が存在することが不可欠であるとの結論に至った.本研究では,層状ケイ酸塩の構造の自由度の高さを改めて認識し,化学修飾の役割を意味づけするとともに,積木細工的に骨格を組んで多孔性物質に変換できることを実証でき,多くの知見を得た.このほか,層間にSiO 4四面体を挿入(シリル化)して隣接レイヤーを架橋させることで多孔体化したAPZシリーズの合成にも成功した.20)これは,合成物のポスト処理に関する検討中に偶然見つけたもので,1.0 M HCl水溶液中に層状ケイ酸塩を加え,443 Kで加熱処理したところ,シリケート層の積層間隔に相当する反射のd値が増大していることが発端となった.構造解析の初期段階では層間の中心部分に新たな電子密度を観測した.固2体9Si-NMR測定からこれがQ 2 Si種(O 2Si(OH)2)であることがわかり,最終的にQ 2 Si種が層間を架橋している様子が明らかとなった.酸処理中に結晶のどこかのSiO 4が脱離し結晶内を移動し隣接するシリケート層を架橋したと考えられる.結果,層間のシリル化によるポーラス構造への変換を実現した.例えばtetraethylammoniumhydroxide(TEAOH)を用いて合成された層状ケイ酸塩PLS-3は,焼成すると10-ringと8-ringの二次元細孔をもったFER型ゼオライト(図5(右))になり,シリル化す日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)図5層状ケイ酸塩PLS-3(中央)とPLS-3を焼成して得られるFER型ゼオライト(右),および層間のシリル化で得られるAPZ-2(左)の結晶構造.(Structuralmodels of layered silicate PLS-3(center), its calcinedform(FER-type zeolite)(right), and APZ-2 that wasobtained by interlayer silylation(left).)ると層間距離が拡がって一回り大きな12-ringと10-ringおよび8-ringからなる二次元細孔をもったAPZ-2(図5(左))へと変化する.架橋部位であるQ 2 Si種におけるSi原子の占有率は60%程しかないにもかかわらず,ガス吸着能測定によるAPZ-2の細孔径分布は非常にシャープで耐熱性も高かった.また焼成で得られるFER型ゼオライトは疎水性であるのに対し,APZ-2では架橋部位にシラノール基があることから親水性を示す.このようにまったく特性の異なるナノ多孔体を作り分けられる点で,層状ケイ酸塩は非常に興味深い素材である.筆者らの研究以降海外でも類似の研究が行われるようになり,本手法はゼオライトまたはその類縁多孔体の新しい合成手法として国際的に認知されるに至っている.2.2有機-無機ハイブリッド多孔体ゼオライトや層状ケイ酸塩を相変化させて得られる多孔体は耐熱性や耐薬品性に優れているが,基本的にはそれ自体の反応性は低い.骨格中のAl原子はプロトンを付加させてAl-OHの局所構造を形成することで固体酸性を発現し,重要な触媒活性点となるものの,より柔軟性の高い反応場としてナノ空間を使うためには骨格に含まれるT原子の置換が有効とされている.なかでもゼオライト並みの耐久性を有し,化学吸着能の優れたナノ多孔体を得る手段として,有機部位をシリカ骨格に組みこんだ有機-無機ハイブリッド化に関心がもたれている.2000年以降,稲垣らによる有機シランを用いたハイブリッドメソポーラス21)や,共同研究者である山本によるゼオライト骨格にメチレン基を導入したハイブリッドゼオライトZOL 22)などが報告された.また構造規則性はかなり低いものの,粘土鉱物や層状ケイ酸塩の層間をさまざまな有機シランでグラフトしたハイブリッド多孔体も報告されている.架橋部位となる有機シランの分子設計により,層間の空隙サイズや親疎水性を変えられることがメリットとされる.その後,イタリアEniの研究者らは,有機シランを主成分とするハイブリッド化合217