ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4
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日本結晶学会誌Vol61No4
日本結晶学会誌61,209-210(2019)最近の研究動向タンパク質結晶学の巨人Michael G. Rossmann大阪大学名誉教授(大阪大学大学院理学研究科)福山恵一Keiichi FUKUYAMA: Giant in Protein Crystallography Michael G. Rossmann今から数十年程前からタンパク質結晶学は身近になり,生化学など広い分野で取り入れられている.Purdue大学のHanley Professor Michael G. Rossmannは若い頃ケンブリッジ大学でM. F. PerutzやJ. C. Kendrew達とともにタンパク質結晶学の基礎を築いた人である.その彼が2019年5月に88歳で亡くなった.彼はInternationalTables for X-ray crystallography Vol.Fのeditorをしていたから,この分野で何らか関係しているものは誰でも知っている研究者であろう.彼は若い頃回転関数や単一同型置換法で決めた位相の誤差が電子密度にどう表れるかなどに取り組み,1970年代は乳酸脱水素酵素を手がけた.この結晶構造を通して核酸を結合するフォールディングモチーフ,Rossmann fold,をいち早く見つけたことでも有名である.また既知のタンパク質の構造から類似のタンパク質構造を決定する分子置換法でも先駆的な業績を残している.個人的なことを述べれば,私が彼と出会ったのは1980年の5月であった.私は学位を取得して1年も経たない頃,ポスドクとしてPurdue大学にやってきた.この何年か前彼が球状ウイルスの構造研究に主力を注いでいたことを鳥取大学の同じ研究室にいた月原先生から聞き及んでいた.私が渡米した1980年はちょうどインゲン豆ウイルス(southern bean mosaic virus, SBMV)の高分解能構造をNatureに報告した年であった.私がPurdue大学のLilly Hall of Life Sciencesの地下にあった研究室を訪ねると,彼はさっそうと現れ,早速どんな研究課題があるか説明し始めた.私はここでウイルスを始めようと思っていたので,アルファルファモザイクウイルス(AMV)を選んだ.私はこの時までウイルスのことは聞いたことがあったが,病気を起こさせるものだという程度の知識しかなかった.私がその頃まで経験してきたことは,工学部化学系の研究室にいたこともあり,有機化合物やフェレドキシンという鉄硫黄タンパク質のX線結晶解析であった.彼の研究室に来て初めてタバコの葉にウイルスを接種し,葉の搾り汁から分画遠心などでウイルスを精製することを始めた.彼の研究室はポスドクが多く,これらの操作は日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)先輩のポスドクから手ほどきを受けた.AMVは径が同じで長さが異なる複数のコンポーネントからなる桿状ウイルスで,これらを分離する遠心操作も経験した.またSDSゲル電気泳動や電子顕微鏡を初めてあつかい始めた.結果として半年以上経ってもX線結晶学を始めることはできなかった.ある日同室のポスドクがAMVをタンパク質とRNAに解離させ,タンパク質を適当な条件にすると均一な粒子が得られることを教えてくれた.この粒子をトリプシン処理したものからクリスマスの頃結晶が現れ始め,やっと結晶解析を始めることができるようになったと思った.なお私が渡米して1ヶ月ほどして,彼はサバティカルでケンブリッジ大学へ出かけ,AMV粒子の結晶ができた頃帰ってきた.彼はケンブリッジ大学で電子顕微鏡についていろいろ習得してきたようであった.当時私は電子顕微鏡のことなど考えが及んでいなかった.私がPurdue大学に来て思ったことは,研究は一人の教授とポスドクが主で,日本のように複数の教員と学生が研究を担っていることと違っていた.研究室内では教授/ポスドク/学生がファーストネームで呼びあった.彼図1 1981年当時の研究室メンバーのグループフォト.後列右から3人目がMichael G. Rossmann,前列中央が秘書のS. Wilder,右端が私.(Group photo ofRossmann lab in 1981. The third person from the rightof the back row is Prof. M. G. Rossmann, center of frontrow is secretary S. Wilder, right end is K. Fukuyama.)209