ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4

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概要

日本結晶学会誌Vol61No4

柴田基洋(a)CCWBBCW(c) domain A(右手系結晶)210(d) domain B(左手系結晶)210(a)BaFe 12-x-0.05 Sc x Mg 0.05 O 19 (x=1.8)437 K, 0 T 500 nm(b)左巻き右巻き002000 001 002002000 001 002(c)(b)domain A1s 2s 3s500 nmdomain BFeGe T = 250 KOver focus B = 100 mT図2(a)LTEMによるスキルミオンの観察の模式図.(b)B20型FeGe多結晶中のスキルミオンのLTEM像.(c),(d)ドメインA,Bから取得したCBED図形.((a)Schematics of observation of skyrmions by LTEM,(b)LTEM image of skyrmions in a polycrystal of B20-typeFeGe,(c, d)CBED patterns taken from domains A andB, respectively.)左手系の磁性は右手系結晶で,右手系の磁性は左手系結晶で現れる相関が確認できた.6)このような結晶・磁性相関はB20型のキラル磁性体MnSiとFe 1-xCo xSiにおいてもLTEMとCBEDにより確認されている.7)キラリティに応じてDの符号が反転する相関がある一方,ある一方のキラリティをもった物質におけるDの大きさや符号は組成に対しても変化する.B20型結晶の混晶系Mn 1-xFe xGeについて同様の観察・分析を行うことで,組成に対してx=0.8付近で結晶構造のキラリティとスキルミオンのヘリシティの相関が反転することがわかった.6)また,LTEM像から計測した磁気周期は組成に対してx=0.8付近で発散することもわかった.6)これは組成に対するDの符号変化を伴う連続的な変化として理解できる.また,スキルミオン応用に有用な室温以上の磁気転移温度をもつ,空間群P4 132/P4 332に属するβ-Mn構造Co 8Zn 8Mn 48)にFeをドープした系についても,同様に磁気構造と結晶構造との相関がx=2.7付近で反転することが確認されている.9)結晶のキラリティと組成の変調によるDM相互作用を介した磁気構造の周期と巻き方の制御が一般に可能であることが示唆される.ここまで,DM相互作用に起因して磁性の巻き方が結晶と相関している例を取り上げたが,ねじれた磁気構造自体は空間反転対称性のある系でもブロッホ磁壁などで現れる.特に面直磁気異方性や磁気双極子相互作用が適切なバランスの系では磁気バブルと呼ばれる渦状磁気構造も安定化される.しかし,これらの磁気構造の左手系と右手系はエネルギー的に縮退しており,どちらも同等に出現するはずである.また,2つの構造間にはエネルギー障壁が存在し,エネルギー障壁を超えるような励起が起これば2つの構造間を遷移するダイナミクスが現れると期待される.空間反転対称性を有するScドープYタイプBaヘキサフェライトについて温度を変えてLTEMの動画を撮影した観察例10)の一部を図3aに示す.図3bに示すように磁気バブルもスキルミオンと同様に面内の巻き方で濃淡が異なって結像されることから,図3aのいずれのフレームも図34s 5s 6sYタイプヘキサフェライトの磁気バブルのヘリシティ反転のダイナミクスHelicity.(reversal dynamics ofmagnetic bubbles in a Y-type hexaferrite.)(a)同一視野についてのLTEM像の時間変化(b)磁気バブルとコントラストの模式図(c)反転時間の温度依存性.左巻き,右巻きの両方を含んでいることがわかる.さらに,時間経過に伴い磁気バブルのコントラストが変化しており,ヘリシティが動的に反転していることが確認できる.なお,コントラストが薄いものがあるのは積算時間中にヘリシティ反転が起き平均化されたためだと考えられる.動画の解析により図3cに示すように,観察したバブルのヘリシティ反転に要する典型的な時間は温度上昇に伴って急激に減少することがわかった.この結果は,右巻きと左巻きの構造がエネルギー縮退していること,これらの間のダイナミクスが熱的な励起で起こることを示している.以上で紹介した例は固体結晶の対称性の性質が磁気構造の対称性やダイナミクスを支配していることを如実に示している.ほかにも結晶構造の歪みによるDM相互作用の異方的変調11)や,異なる対称性をもった系でのスキルミオン構造の発見,12)アキラルな系でのヘリシティのダイナミクスの観測13)などがLTEMを用いて行われている.これらの分析手法や得られた知見は,新たな磁気構造と結晶構造や組成の関係を理解・応用する際に有用であると考えられる.謝辞本稿は筆者が東京大学工学系研究科および理化学研究所CEMSに在籍中に行った研究を軸にまとめたものです.十倉好紀教授,有馬孝尚チームリーダー,于秀珍チームリーダー,金澤直也講師をはじめとする皆様に深く感謝の意を表します.文献1)N. Nagaosa and Y. Tokura: Nat. Nanotechnol. 8, 899(2013).2)S. Muhlbauer, et al.: Science 13, 915(2009).3)X. Z. Yu, et al.: Nature 465, 901(2010).4)金澤直也ほか:日本結晶学会誌5, 247(2011).5)津田健治:日本結晶学会誌44, 201(2002).6)K. Shibata, et al.: Nat. Nanotechnol. 8, 723(2013).7)D. Morikawa, et al.: Phys. Rev. B 88, 024408(2013).8)Y. Tokunaga, et al.: Nat.commun. 6, 7638(2015).9)K. Karube, et al.: Phys. Rev. B 98, 155120(2018).10)X. Z. Yu, et al.: Phys. Rev. B 93, 134417(2016).11)K. Shibata, et al.: Nat. Nanotechnol. 10, 589(2015).12)A. K. Nayak, et al.: Nature 548, 561(2017); L. Peng, et al.: Nat.Nanotechnol. accepted.13)M. Nagao, et al.: Nat. Nanotechnol. 8, 325(2013).208日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)