ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4

ページ
10/68

このページは 日本結晶学会誌Vol61No4 の電子ブックに掲載されている10ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol61No4

石井貴之占めていると考えられる.その他八面体席中の陽イオンのBVSは,2と3の中間の値(M2:+2.98,M3:+2.19,M4:+2.95,M5:+2.36)を取り,Fe 2+とFe 3+の無秩序分布が示唆される.今回得られた(Mg 0.87(1)Fe 2+4.13(1))Fe 3+4O 11の結晶構造は,これまでに得られた新規Fe-Mg酸化物の構造と密接な関りをもつ.図2は,Fe 3+/(Fe 2++Mg)比の変化に伴う結晶構造の変化を表している.これら新規Mg-Fe酸化物の結晶化学的特徴は,稜共有で繋がった(Mg,Fe 2+)O 6八面体の単鎖をもつことである(図2中の破線).直方晶系X 3O 4,X 4O 5,X 5O 6は,Fe 3+/(Fe 2++Mg)比の減少とともに,三角柱席に対して,2つの(Mg,Fe 2+)O 6八面体単鎖が対称的に加わっていく.一方で,直方晶系(X 3O 4,X 4O 5)から単斜晶系構造(X 7O 9,X 9O 11)への変化の際には,1つの(Mg,Fe 2+)O 6八面体単鎖が加わる.つまり,三角柱席に対して非対称な(Mg,Fe 2+)O 6八面体からなる骨格構造が形成されることで,単斜晶系へと結晶系を変化させる.この構造的類似性から,異なったFe 3+/(Fe 2++Mg)比をもつ新たなMg-Fe酸化物の合成が期待される.例えば,より小さなFe 3+/(Fe 2++Mg)比をもつX 11O 13(n=2.5)(一気圧ではCa 2Fe 9O 13組成で報告されている8))は,良い候補となるだろう.以上のように,これまでに多くの新規Mg-Fe酸化物が合成されてきた.これら新規相の安定領域については,いまだ詳細には明らかになっていない.現在までのところ,これら新規相の合成条件(Fe 3O 4:10~25 GPa/700~1400℃,Fe 7O 9-Mg 3Fe 4O 9:18~26 GPa/1300~1800℃,Fe 4O 5-Mg 2Fe 2O 5:10~45 GPa/1150~1700℃,Fe 9O 11-Mg 0.9Fe 8.1O 11:12 GPa/1300℃,Fe 5O 6-Mg 3Fe 2O 6:10~40GPa/1200~2000℃)1),2),4)-7),10)にはばらつきがあり,結晶構造と合成圧力温度には明確な系統性はないようである.以上のことから,新規Mg-Fe酸化物は,10 GPa以上で安定であるが,その安定性は温度圧力条件よりむしろ酸化還元状態に強く依存していると示唆される.ここで,近年活発に議論されている新規Mg-Fe酸化物の地球科学的重要性の内,筆者が特に興味をもつトピックについて簡単に紹介する.地球内部の構造や物質循環を理解することは,地球深部科学における最も重要な目的の1つである.そのためには,地球内部で生成したダイヤモンド中に含まれている鉱物を調べることが有効である.ダイヤモンドは,地球内部に存在する鉱物を取り込んで,その当時の環境をほぼ保ったまま,地表まで上昇してくることがある.上記の新規Mg-Fe酸化物やその痕跡が,そのようなダイヤモンド中で見つかれば,地球深部の構造や酸化還元状態を知る手掛かりとなる.最近,特定の結晶面上の双晶をもったマグネタイトが,ダイヤモンド中で見つかった.11)この双晶面は,新規Mg-Fe酸化物の三角柱席により作られる面(例えば,図1中の図2Mg-Fe系新規酸化物のFe3+/(Mg+ΣFe)比の変化に伴う結晶構造変化.(Structural change among novelhigh-pressure Mg-Fe oxides as a function of Fe 3+/(Mg+ΣFe)ratio.)描画にはVESTAを使用.9)c軸方向に垂直な三角柱席を含む面)に対応している.そのため,この特異なマグネタイトは,地球深部で安定であった新規Mg-Fe酸化物が地表まで上昇する際の圧力・温度変化によって,生成した可能性が提案されている.6),7),11)生成条件をさらに制約するために,今後より詳細な相平衡実験が必要不可欠である.また,新規Mg-Fe酸化物の総合的理解は,地球内部の構造・酸化還元状態だけでなく,ダイヤモンド自身の生成条件を探る上でも重要な鍵となるだろう.以上,新規Mg-Fe酸化物の結晶化学的関係とその地球科学的関連性を述べてきた.これら新規Mg-Fe酸化物の発見により,高圧下でのMg-Fe-O系の物質科学はより複雑なものとなった.これら新規相は,地球科学的に重要であるとともに,物質科学的観点からも注目されている.例えば,Fe 4O 5において,特異な磁気的性質が報告される12)など,構造に起因した新規な電子物性の発現も期待される.こうして新規Mg-Fe酸化物の研究は,今後も幅広い分野で興味が持たれるだろう.文献1)B. Lavina, et al.: Proc. Natl Acad. Sci. USA 108, 17281(2011).2)B. Lavina and Y. Meng: Sci. Adv. 1, e1400260(2015).3)E. Bykova, et al.: Nature Commun. 7, 10661(2016).4)R. Sinmyo, et al.: Sci. Rep. 6, 32852(2016).5)L. Uenver-Thiele, et al.: Am. Mineral. 102, 632(2017).6)L. Uenver-Thiele, et al.: Am. Mineral. 102, 2054(2017).7)T. Ishii, et al.: Am. Mineral. 103, 1873(2018).8)B. Malaman, et al.: Mater. Res. Bull. 16, 1139(1981).9)K. Momma and F. Izumi: J. Appl. Crystallogr. 44, 1272(2011).10)K. Hikosaka, et al.: Am. Mineral. 104, 1356(2019)11)D.E. Jacob, et al.: Nature Commun. 7, 11891(2016).12)S. Ovsyannikov, et al.: Nature Chem. 8, 501(2016).206日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)