ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
会報AdatomとStacking faultからなる再構成構造モデルを世界に先駆けて提案した.DASモデルは後にSTMにより確認され,STMの有効性を示すことにつながり,RohrerとBinnigのSTMの発明への1986年ノーベル物理学賞に結実し,原子レベルでの表面・界面結晶学を大きく発展させた.また,超高真空電子顕微鏡を用いてAu原子クラスターの成長のその場観察に成功し,特異な微粒子・ナノ粒子の構造を明らかにした.さらに,超高真空電子顕微鏡内にSTMを組み込み,プローブを試料と接触させた後に引き離すことで電極間に架橋された金ナノワイヤーを作製し,その構造がカーボンナノチューブのような多層らせん構造をもつこと,金単原子鎖の1本が1個のコンダクタンスチャンネルを開くことをナノ構造観察と量子物性測定の同時計測から明らかにした.この量子化コンダクタンスの計測から得られたナノスケールでの量子力学的物性(コンタクト量子化伝導効果)は,ナノワイヤーやナノ分子を扱う電子線結晶学とそのナノテクノロジーへの応用など関連分野に対する極めて大きい波及性を示すものとなっている.高柳会員は,本会評議員ならびに日本学術会議IUCr分科会や結晶学分科会の委員を務められた.また高柳会員は,超高真空電子顕微鏡の内部を拡げSTMを組み込むことを手始めに,新しい測定手法を開発することで我国の結晶学の発展に大きく貢献してきた.特に新型の球面収差補正器を開発することで,電子顕微鏡で水素原子半径に相当する最高空間分解能0.47 Aを達成した.さらには,高安定度・高コヒーレンスの冷陰極型電界放出電子銃を開発することで,精密測定を可能にした.これらの超高真空電子顕微鏡の装置技術は汎用の電子顕微鏡開発にも引き継がれ,広く社会に波及するものとなっている.その技術開発は,若手研究者や企業技術者の育成につながっており,電子線結晶学にかかわる研究コミュニティー全体に大きく貢献するものとなっている.以上のように,高柳邦夫会員の表面ナノ構造と量子伝導性の同時計測に関する研究の電子線結晶学への貢献は極めて大きく,日本結晶学会賞西川賞に相応しいものである.近年のタンパク質試料の調製および結晶化技術の発展により,生命科学や医科学研究において重要な膜タンパク質や超分子複合体の結晶構造解析が研究対象となったが,微小結晶しか得られないことが多く,測定・解析は極めて困難であった.平田会員は,SPring-8のビームラインBL32XUの建設に参画し,高フラックス1μm微小ビームを,世界で初めて定常的に利用可能なタンパク質結晶構造解析専用ビームラインとして完成させ,微小結晶からのデータ収集に道を開くことに貢献した.さらに,μmオーダーの微小結晶の低い視認性,弱い回折強度,重篤な放射線損傷の問題点を解決するために,まず,放射線損傷の程度を管理・抑制するデータ収集最適化ソフトウェアーKUMAを開発した.次に,微小結晶の位置探索プログラムSHIKAや多数の結晶から収集した大量のデータを高精度で完全なデータセットにするKAMOなどの開発を,BL32XUの担当者として指揮し,これらを統合した自動データ収集システムZOOを完成に導き,タンパク質微小結晶構造解析の一般化と自動化を達成した.また,SACLAを利用した無損傷高分解能構造解析法の開発も行った.平田会員が完成させたZOOシステムで制御されたBL32XUは,μmオーダーのタンパク質微小結晶の迅速かつ簡便な構造決定を可能にした.その利用により,多くの膜タンパク質の結晶構造解析が成功に導かれ,多様な膜タンパク質の働く仕組みの解明や医学応用の基盤となる研究成果として,トップジャーナルに相次いで報告されてきた.また,BL32XUとZOOシステムによるタンパク質微小結晶構造解析は,世界の放射光施設にも大きな影響を与え,海外の新世代放射光施設がこぞって1μm集光と微小結晶をターゲットとしたタンパク質結晶構造解析ビームラインを建設している.以上の平田邦生会員による研究業績は,タンパク質結晶解析の対象を高難度タンパク質微小結晶に広げる最先端の技術開発であり,世界的に高く評価されているとともに,生命科学や医科学分野の研究の進展に大きく貢献しており,日本結晶学会賞学術賞に相応しいものである.2019年(令和元年)度日本結晶学会賞学術賞授賞理由「高難度タンパク質微小結晶構造解析の汎用化を実現した迅速自動データ収集システムの開発」平田邦生会員平田邦生会員は,従来の技術では測定・解析が困難であった膜タンパク質微小結晶など高難度解析サンプルの迅速かつ高精度な構造解析を実現する方法論の開発に,一貫して取り組んできた.微小結晶からのデータ収集を可能にし,さらに汎用技術へ高める自動構造解析パイプラインの構築を主導した.日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)2019年(令和元年)度日本結晶学会賞進歩賞授賞理由「エンドセリンB型受容体の結晶構造と活性化機構の解明」志甫谷渉会員志甫谷渉会員は,生命医科学において重要なGタンパク質共役受容体(GPCR)の構造研究に取組み,その立体構造と活性化機構の解明において顕著な成果を上げた.GPCRは,細胞外のホルモンを受容することで細胞内のGタンパク質を活性化させ,生体内のシグナル伝達を制御する受容体である.ヒトでは約800種類存在し,現在使われている治療薬の約30%がGPCRを標的とし197