ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
精密高温測定の技術と解析器の発光効率は~250 nsと長く,少しX線が強くなるともう間に合わない(数え落とす)場合があり,X線経路に減衰板や吸収板などを入れて本末転倒的なことをしなければならない.しかし岸本らによって開発された8枚積層型のシリコン・アバランシェフォトダイオード検出器を使えば毎秒1~10 9個のX線光子をほぼ正確に計数できるようになり,先に述べた減衰板や吸収板を完全に駆逐した.12)-14)この検出器は放射光実験施設BL-14Aの四軸型回折計に組み込まれ,無機結晶の精密構造解析に使用されている.次節では同装置を用いた測定例の1つとしてLiMn 2O 4の相転移15)について述べる.6.LiMn 2 O 4の相転移LiMn 2O 4はリチウムイオン電池の正極材料の母体結晶の1つとして広く知られている.室温付近にやや緩慢な相転移があり,低温相のLiイオン伝導性はきわめて低いが,この構造を理解することが高温相におけるLiイオンの結晶内拡散を理解する手掛かりとなる.LiMn 2O 4の高温相は通常の立方晶系スピネルの構造(空間群Fd3_m)をとり,低温相は3×3×1の超構造(空間群Fddd)をとる.低温相のMn席にはMn1からMn5までの独立なMn席があり,そのうちMn1とMn3席には3価のMn IIIが,Mn4とMn5席には4価のMn IVが入り,その電荷はほとんど変動しないと考えられる.一方Mn2席は3価と4価の両方の状態をとり(原子価揺動),その時間平均は3.25価である.4個のMn2と4個の酸素(O9)からなるヘテロキュバン型クラスターは分子ポーラロンを形成し,4個のMn2のe g由来軌道に3個の電子が共有され,Mn2の電荷が時間平均値として3.25(Mn IV:Mn III=1:3)になっていると推定される.このe g由来軌道はスピンの向きを揃えてa軸方向に規則配列し,一軌道当たり平均3/4個の電子が入り,弱いヤーンテラー歪をa軸方向に示す.別な表現をすると,ヘテロキュバン型クラスター内にMn IIIが3個,Mn IVが1個あり,この位置関係が時刻とともに変化するが,ヤーンテラー軸は常にa軸方向に揃っており,e g由来軌道における電子の有無に依存してMn-O結合距離がa軸方向に伸びたり縮んだりする結合長揺動を起こす(図5および動画2参照).この3×3×1型低温相におけるMn IVの配列をc軸方向から眺めると,アルキメデスの正多角形による8種類の平面充填の1つである正方形1枚,正八角形2枚から構成される(4,8,8)型タイルの目地の頂点位置にMn IVが分布している(図6).Mnの原子価揺動が生じているヘテロキュバン型ポーラロンは8角形の2つのタイルのうちの1つに閉じ込められている.残るもう1種類の8角形タイルには原子価揺動のないMn IIIが収納されている.タイルの目地の各頂点にあるMn IVはスピンブロッケードを構築し,原子価揺動と結合長揺動が起きているヘテロ日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)図5ヘテロキュバン型Mn 4O 4クラスターにおけるMnの原子価揺動(Mn IIIはe g由来軌道に入る電子を図案的に表示,Mn IVは赤い変位楕円体)と周辺酸素も含めた結合長揺動の模式図.(Schematicstructure of the heterocubane Mn 4O 4 cluster andsurrounding oxygens, showing the fluctuations of theMn oxidation-states and Mn-O bond-lengths.)編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.図6 1つの正方形(黒色)および2つの正八角形(灰色)からなるアルキメデスの(4,8,8)型の平面充填に基づくタイル模様(図の縦と横はLiMn 2O 4低温相のaとb軸長にそれぞれ対応).(The(4,8,8)-typeArchimedean tiling pattern composed of a square(black)and two octagons(grey)with corners occupied byMn IV , in the low-temperature form of LiMn 2O 4.)低温相のMn IVはタイルの目地の各頂点に位置し,原子価揺動および結合長揺動を示すヘテロキュバン型ポーラロンが正八角形の1つのタイル内に閉じ込められている様子を模式的に示す.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.185