ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
精密高温測定の技術と解析{ }wi= ( sij) u(3)si? ?= U a a(4)ij ij i jここで,a i*は逆単位胞の各辺の長さ,c ijkは3次の展開係数であり,U ijは調和振動近似で得られる原子変位因子のU表現と呼ばれる3行3列の分散共分散行列の係数,(s ij)はs ijの行列表現である.式(2)を用いて求めた各原子の確率密度関数を炭酸基の3個の酸素についてさらに重ねた連結確率密度関数(joint-probability density function)8)を図2に示す.この図は連結確率密度関数を3つの等数値面に分けて表示したもので,外側の透明に近い色の等密度面は積分したときにその内部に90%の酸素が存在することを示し,その内側の面は内部に50%の酸素が存在することを示し,一番内側の濃い色の等密度面は内部に10%の酸素が存在することを示している.方解石は高温で可逆的なI?IV?V逐次相転移を起こす.左端の絵は,I相の891 Kにおける炭酸基であり,3個の酸素原子がそれぞれ独立に,炭酸基の平面から少し斜めの方向により大きく振動している様子がわかる.I相は調和振動子モデルが良い近似で使える場合である.中間の絵は1,234 KにおけるIV相の図2方解石中の炭酸基の酸素の連結確率密度関数.(Joint-probability density function of the oxygenatoms in the CO 3 group of calcite.)白,桃色,赤の等密度面で囲まれた内部にはそれぞれ90,50,10%の酸素原子を含む.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.もので,酸素がO1席とO2席の2カ所の位置に統計的に分布している.1つの炭素の周りの3つの酸素はO1(とその等価な席)の周りで振動しているか,あるいはO2席(とその等価な席)の周りで振動しているかのどちらかである.IV相では,いわゆるスプリットアトムモデルを用い,調和振動を仮定してもなんとか解析はできる.しかし同様な方法でV相を解釈することは難しい.6),9)図2右の1,275 KのV相では酸素は炭素の周りで波を打ったような軌道の周りに一様に分布している.I相のようにO1席にのみ存在するとか,IV相のようにO1席あるいはO2席に統計的に存在するとかという「酸素位置の局在性」は失われている.酸素が最も高い確率で存在するところは,炭素の周りの「うねった円軌道」(undulatedcircular orbital)上にあって特定できない.散乱体の確率密度分布はボルツマン統計を仮定することで有効一粒子ポテンシャルに変換することができる.7),8)Veff? Pdf= ?kBTln??Pdf( u)??(5)u 0 ?( )ここでk Bはボルツマン定数,u0は零ベクトルである.連結確率密度分布からこの軌道に沿ったポテンシャルエネルギーを算出すると,うねった円軌道上の点はすべて最低値(ゼロ)になる.換言すればこの軌道上であれば酸素はどこにいても等しく安定である.この意味でV相の結晶中では酸素は副格子溶融を起こしていると言えるであろう.一方,このような高温においても,1つの炭酸基の3個の酸素は相互に等距離を保ち,また中心炭素からも等距離を保っていると考えられる.すると,V相の酸素のうねった円軌道は,3個の酸素が傘反転を繰り返しながら炭素の周りを回転することを示唆している(動画1参照).すなわち炭素も含めた炭酸基分子は高温で平面性を大きく失う瞬間が周期的に生じる.もちろん十分な時間平均をとればその平面性は保たれている.方解石(calcite-I)や霰石(aragonite)などの炭酸カル図3方解石V相における八面体型カルシウム包接体中の酸素のうねった円軌道とこれに対応する方解石(O1/O2席)および霰石(O3/O4席)中の酸素位置.(Undulated circular orbital of oxygens of the CO 3 group in the octahedralcalcium cage in calcite-V, showing the corresponding oxygen positions O1/O2 in calcite and O3/O4 in aragonite.)日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)183