ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
石澤伸夫図1La 2Ti 2O 7の3+1変調構造相における変調ベクトルq=αa*の係数αの温度依存性.(Temperature dependence ofαin the modulation vector q=αa* in the(3+1)-modulated phase of La 2Ti 2O 7.)左図は研究初期に得られた誤差の大きい解析結果で,右図はフレームデータの解析を適切に行って得られた,より正確で誤差の小さい解析結果を示す.αの温度依存性の測定例である.POORと大書した左図は実験開始当時のもので,装置パラメータなどの精密化も含め,ほぼデフォルトに近い計算プロセスにより得られたものである.左図ではαの温度依存性が不明瞭である.また,このようなやり方で得られた格子定数の温度変化もばらつきが大きかった(この研究では格子定数の4桁目の数字を正しく求める必要がある.すなわち5桁目の誤差をおよそ±2以下にする必要があった).そこで,まず室温で長時間測定した最も上質と思われるデータセットから各種装置パラメータを決定し,これを同一結晶に対する他の温度のデータに対しても適用した.高温で得られた短時間測定のフレームデータの解析には,温度依存性を示す重要なパラメータ(具体的には格子定数,変調ベクトル係数α,および回折計中心からの結晶位置のずれ)のみを精密化させた.こうして図1のGOODと書いてある右図のような結果が得られた.変調ベクトルの温度変化は明瞭であり,2つの結晶試料(LT5およびLT9)を用いた独立な解析結果(実験時期および実験者も異なる)を重ねて描いてあるにもかかわらず,両者の違いはほとんどない.また昇温過程・降温過程による差異もほとんど存在しなかった.得られた結果から変調ベクトル係数αは温度に対してほぼ1/4乗で変化することがわかり,相転移の機構に関する議論が可能になった.La 2Ti 2O 7は層状ペロフスカイト構造をもつA 2B 2O 7型化合物の一種で,その相転移はBO 6八面体の三次元的な連鎖をもつABO 3型ペロフスカイト構造よりもさらに複雑であり,低温側に多くの多形が報告されている.この原因の1つとしてIC相に存在する単位胞サイズの双晶構造とその温度に伴う盛衰が関連する可能性があると推定された.3.確率密度関数結晶構造の精密化に際しては独立原子モデル(Independent Atom Model;IAM)を仮定することが一般的である.また,各原子の熱振動には等方性や非等方性の調和振動子を仮定することが多い.しかし,高温では原子の熱振動が大きくなり,このような調和振動子モデルでは構造の正しい把握が難しくなることがある.この節では原子の確率密度関数をより高次の項まで用いた6方解石(calcite)の高温相の解析例)について述べる.一般に回折波の振幅は散乱体密度のフーリエ変換で表される.7)IAMにおいて,散乱体密度極大の動的分布に依存する項は原子変位因子と呼ばれ,確率密度関数(Probability density function;Pdf)のフーリエ変換として次式で与えられる.∞T ( h) =∫Pdf ( u) exp( 2πih?u ) du(1)?∞ここで,hは散乱ベクトル,uは散乱体密度極大の位置ベクトルである.確率密度関数(Pdf)を表現するための展開関数にはいろいろあるが,一番簡易なモデルはGauss関数を用いる調和振動近似である.非調和振動解析では確率密度関数の展開関数として高次のGram-Charlier級数を用いる場合がある.原子の確率密度関数を3次のGram-Charlier級数を用いて表現すると以下のようになる.ijkPdf ( u) ??= ?1 + 1 c ( wi wjwk ? wi sjk? wjski ? wk sij) ?? 3!??det(( s ij ) ?1)3( 2π)? 1 ?t ?1 ?exp?u ( s ij ) u?(2)? 2 ?182日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)