ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
日本結晶学会誌61,181-186(2019)ミニ特集精密構造解析精密高温測定の技術と解析名古屋工業大学先進セラミックス研究センター石澤伸夫Nobuo ISHIZAWA: Techniques and Methodologies for Precise Diffraction-Experimentsat High-TemperaturesHigh-temperature single-crystal X-ray diffraction studies done recently in our group are brieflyreviewed from the viewpoint of the techniques and methodologies employed.1.二次元検出器を備えた単結晶回折計を用いるときの留意点高温における単結晶の構造変化を調べるときは二次元検出器を備えた単結晶X線回折計が便利である.その理由の1つは,ゼロ次元検出器(ポイントディテクター)に比べて「面」で走査する分だけ,比較的短時間で測定を終了できるからである.二次元検出器としてはイメージングプレート(IP)やCCD型X線検出器など積分型のX線検出器が使われてきた.1)しかし最近ではX線光子を1つ1つ検出できるパルス型二次元X線検出器も現れ,2)今後の展開が楽しみである.二次元検出器を備えた単結晶回折計を用いて得られた大量のフレームデータを計算機処理する際は,格子定数や回折強度など,結晶構造そのものにかかわる本質的な諸量の算出と同時に,検出器の位置,歪み,回折計の中心からの結晶の位置のずれなど,多くの装置パラメータも精密化される.このとき,どのような装置パラメータが精密化され,どのようなものが固定されるか,あるいは拘束されるか,すなわちフレームデータを解析するソフトウェアはいったい何をしているかを正確に把握する必要がある.もっとも,室温における一点限りの測定で,単位胞サイズのあまり大きくない結晶の未知構造をざっくりと決定する場合には,このことはほとんど問題にならない.回折計に付属するソフトウェアのデフォルトのルーチンはそういう場合に特化されているからである.しかし,結晶の単位胞がかなり大きかったり,1つの結晶軸の長さが異常に長かったり,擬対称を示したり,複雑な双晶構造をとったりする場合などでは問題が生じることがある.またその逆に,ダイヤモンドやシリコンなど逆空間における格子点密度の小さい完全性の高い結晶でも,デフォルトの設定では解析に驚くほど困難をきたすことがある.試料温度を細かく変えて測定を繰り日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)返す高温構造解析も同様に難しい場合がある.次節では変調構造をもつ結晶の温度変化を調べた例について述べる.実験装置はCCD型X線検出器を備えたブルカー社のSmart Apex2である.二次元検出器から得られたフレームデータの解析には同装置に付属するプログラムであるSAINTを用いた.2.変調ベクトルの温度依存性La 2Ti 2O 7は1,735 Kという高いキュリー温度をもつ強誘電体で,近年では,水の全分解にかかわる光触媒特性についても注目されている.既往の研究によると,La 2Ti 2O 7は1,0003K付近に隣接する2つの相転移)があり,この狭い温度域において変調ベクトルq=αa*(α~0.49)をもつ3+1次元の変調構造を示すことが知られている.4)5最近の研究)によると空間群P112 1をとる低温相(L)のLa 2Ti 2O 7結晶を加熱していくと989 K付近から超空間群Cmc2 1(α00)0s0;α~0.49で記述される変調構造相(IC)が出現し始め,低温相(L)との2相共存領域に入る.この2相共存領域においてL相を特徴づける超構造反射の平均反射強度は昇温とともに急激に減少し,1,027 Kにおいて完全に消失する.一方,IC相を特徴づける衛星反射の平均強度は2相共存領域で徐々に増加し,IC相の単相になる1,027 Kで最強になる.しかしその温度においてもsinθ/λ<0.70の逆空間における全衛星反射の強度の和は全基本反射の強度の和の2%に満たな5い(関連論文)のFig. 2参照).さらに昇温すると衛星反射の平均強度は直線的に減少し,1,080 K付近でゼロとなり,結晶は基本反射のみからなる空間群Cmc2 1の高温相(H)に変化する.IC相の出現する温度領域は狭く,また,衛星反射の強度そのものも弱いため,L?IC?H逐次相転移に伴う結晶構造の温度変化を知るには,高度の測定・解析技術を必要とした.図1はLa 2Ti 2O 7のIC相における変調ベクトルの係数181