ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3

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概要

日本結晶学会誌Vol61No3

月原冨武プロトンプール開380FeCu B開水チャネルEABDC図12 R状態での経路Hの水チャネルに沿った空洞.(The water channel of the H-pathway and Mgcontainingcluster in the R-state.)N側から順にA,B,C,D,Eの空洞があり,空洞AにH 3O+が取り込まれて順次Eまで移動し,さらにプロトンがプロトンプールであるMg水クラスターに輸送される.R以外の状態では空洞C,DがなくなるためにH 3O+の移動が妨げられる.きる空洞が繋がっていて,H 3O+として移動して,さらに水素結合を介してMg水クラスターにプロトンが移動できる.一方,ヘリックスXの構造が変化しているR状態以外では空洞の一部が消失してH 3O+の移動が困難になり,弁が閉じられた状態になっている.この水チャネルを介したプロトン輸送に関しては2017年に理論計算によって,空洞には水は入れないという反論が出された.57)しかし,その計算は2003年に報告したまだ水を置いていない段階のタンパク質構造(1V54.pdb)に基づいた計算結果であり,2016年に報告した構造(5B1A.pdb)では水が入れないと予測した空洞にも水があり,この計算による反論は排除できた.変異体CcOの調製は困難をきわめたが,H経路の水チャネルにある2カ所の変異体Val386Leu/Met390Trpを作成してプロトン能動輸送の失活を確認し,H経路プロトン能動輸送説の妥当性を確認した.58)Asp51が休止酸化型と還元型で大きく構造が変化することを見出したことがH経路によるプロトン能動輸送説を提唱するきっかけであった.Asp51はH経路のP側の端に位置し,その直前にペプチド結合があって,プロトンはペプチド結合のCO,NHでの脱着が必須である.Asp51の役割やペプチド結合を介したプロトン輸送を検証するために,Asp51Asn変異体,59)Ser441Pro変異体b 57)を調製してプロトン能動輸送活性を測定した所,両方とも活性が消失して説の妥当性が証明された.このペプチド結合を介したプロトン輸送の仕組みについては量子化学計算によっても確認された.60)4.7安全性を見計らった構造変化タイミングの制御水チャネルは酸素分子が酸素還元中心に結合した時membrane382383380-bulgecouplinggate382, 383-bulgeCu BHeme a 3閉R状態点で弁を閉じるとしたが,酸素分子が酸素還元中心に移動するどの段階でヘリックスXが構造変化を起こして弁の開閉を行うのかをより詳細に調べるために時分割実験を行った.その結果を図13にまとめている.61)酸素還元中心に酸素分子が入って来る際に,最初はCuBに結合してその後20 ns後にはFea 3に結合してA状態になる.R状態ではアミノ酸残基380のCOが突出して水素結合が切れた380-bulgeで,弁は開いた状態になっている.酸素分子がCuBに結合した段階でヘリックスXは382,383-bulgeになり,弁は閉じた状態になる.その20 ns後には酸素分子はFea 3側に移ってA状態になる.タンパク質部分の構造変化は時間を要するが,CuBに結合後20 nsあればヘリックスXの構造変化は完了する.A状態になると直ちに反応サイクルが回り酸素還元とプロトン能動輸送が始まる.ヘムa近傍にあるプロトンがヘムaの正電荷FeOOCu BOO酸素移動中間体OOFeA状態Cu B図13水チャネルが閉じるタイミング.(Timing of gateclosing of the water channel.)左上図と左下図はそれぞれヘリックスXが水チャネルを開く場合と閉じる場合の構造.左中図は水チャネルの開閉は酸素還元中心の構造変化に連動していることを示している.右図は上から順にR状態,酸素分子がCuBに結合した状態,その後酸素分子がヘムa 3に配位したA状態への変化を示している.R状態で380-bulgeのヘリックスXの構造は酸素分子がCuBに結合した時点で382,383-bulgeに変化して水チャネルの弁を閉じる.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.閉閉178日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)