ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
生命科学の飛躍のために一層深まるタンパク質結晶学の役割~シトクロム酸化酵素の精密構造解析から見た現状と課題るO原子を特定できる.こうした解析を行う場合,精密化における束縛条件がきわめて重要になる.より真の構造に近い構造を求めるためにそれぞれの分解能で,いたずらに標準値に合わせるのではなく,Foのもつ構造情報を引き出す適切な束縛条件を決めるべきである.理論・計算科学に有用な信頼度の高い結晶構造解析を行い,ほかの実験手法の協力を得て,タンパク質によって駆動される化学を解き明かすことは結晶学に課せられた役割である.3.3.3時分割構造解析タンパク質中の化学反応過程を観測する方法には,タンパク質が働く際に順次生じる状態を止めてスナップショットを撮る方法と,変化する構造を直接観測する時分割構造解析がある.前者は先に述べたようにCa 2+ATPaseにおいて成功し,酵素の働きの全容を見事に捉えた.後者は強力なフェムト秒パルスであるXFELの出現によって現実のものになった.岩田想教授(理化学研究所・京都大学)のグループはSACLAにおいてバクテリオロドプシンの時分割構造解析を行いプロトン輸送機構の解明に成功した.39)その研究では,光励起後16 ns後から1,725μs後まで合計13段階の構造を決定した.それらの構造を光照射前の構造と比較して構造変化の詳細を捉え,プロトン輸送機構の理解を深めることができた.この研究に続いてSACLAでは後述するシトクロム40酸化酵素のCO光解離)41およびPSIIの光励起)の時分割構造解析(図5)が行われて,それらの酵素の働きの仕組みの解明が進んだ.これらはタンパク質機能の理解に向けて,位置および時間の両次元でまだ十分とは言えないが,より高い分解能の動的構造解析によってタンパク質が駆動する化学反応を直接捉える研究が開始された.構造生物学の新しい展開が現実になって来ている.3.3.4結晶の高分解能化方法の確立精密で信頼度の高い構造を得るうえで結晶の有利性を述べる必要はないであろう.化学を語ることのできるタンパク質結晶構造解析にとっては,如何にして良質の結晶を得るかということが最大の課題である.これまでサブA分解能の結晶は,元々ほかのタンパク質と比べて高分解能の反射を与える結晶であり,それに精製・結晶化条件を改善して高分解能化を計っている.現時点ではタンパク質調製法の改良と微小重力下を含む結晶化条件のランダムスクリーニングが分解能向上のための手段である.そこに留まらず2 A分解能の結晶から1 A分解能の結晶へ改善する方法を構築することはタンパク質結晶学にとって戦略的課題である.生体超分子などでも高分解能の構造解析のための結晶化は一層重要になる.EMによる構造研究では,タンパク質の精製状況を的確に把握できる.EMの利用はタンパク質調製や結晶化条件の検索を行う上でも極めて有効である.4.シトクロム酸化酵素(CcO)の構造研究による生命科学への貢献4.1 CcOの構造・機能研究の概要CcOはO2+4H++4e-→2H 2Oを触媒する酵素である.Fe a32+Cu B1+RO 2Fe a33+AO- 1+2 Cu BH 2 Oheme aH +Fe a33 + OH - Cu B1+ H +H 2 Oe -H +EFe a33+O 22-Cu B2+P5Fe + a3 =O 2- 2+HO Cu Bheme ae -H +H +Fe a33 + OH -- HO Cu B2+OH + Fe a34 + = O 2- HO Cu B2+e - e -H + heme aH +heme aF図5光合成系ⅡのS1状態からS3状態に移行したときの2.35 A分解能時分割構造解析.(Structural changesaround the oxygen-evolving complex of photosystemII between states S1 and S3.)曲線矢印はS1からS2への構造変化を示している.20ミリ秒間にCa,酸素,アミノ酸側鎖が微細な構造変化を起こす.分子量70万の生体超分子の中で微細な構造変化を捉えることに成功した.原図は菅倫寛博士(岡山大学)より提供していただいた.図6CcOの酸素還元反応サイクル.(Schematicrepresentation of the catalytic cycle of CcO.)枠内はヘムa3,CuBからなる酸素還元中心と反応物の状態を示している.Rはヘムa 3,CuBがともに還元状態であり酸素還元中心には配位子になる化合物はない.酸素還元中心に酸素分子が入ってくるとA状態になる.順次P,F,O,Eと進んで,再びRに戻る.太線の矢印はプロトン能動輸送を示している.破線枠の構造はまだ観測されていない.日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)173