ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
月原冨武図4解析が待たれる.H +H +FMN結合部位キノン結合部位電子移動経路膜間腔マトリックス複合体Ⅰの構造.(Cαtraces of mitochondrial complexⅠ.)タンパク質の構造をCαを結んだ線で表示し,マトリックス側にある親水性サブユニットにある活性中心原子と膜貫通領域の中程にある親水性アミノ酸の原子を球で表示している.直線の矢印はFMNからキノン結合部位までの電子伝達経路,4カ所の曲線の矢印は能動輸送されるプロトンの経路を示している.ミトコンドリア内膜にある呼吸鎖には,複合体Ⅰ,複合体Ⅱ,複合体Ⅲ,複合体Ⅳがある.複合体II以外の酵素は酸化反応に共役してプロトンを能動輸送する.電子は順次,複合体Ⅰ,(複合体Ⅱ,)複合体Ⅲ,複合体Ⅳに渡されて最終的にはO 2に移動する.EM単粒子構造解析によって呼吸鎖超複合体(複合体Ⅰ,Ⅲ2,Ⅳ)の構造が決定されており,34),35)そこでは各タンパク質間の電子伝達は自由拡散によるのではなく,隣り合うタンパク質間で電子伝達が行われる4次構造を担っている.この超複合体の構造では高次の階層での構造が高効率の機能をもたらしていることを示した.3.3精密な構造解析による生命科学への貢献精密な構造に関しては,位置精度と時間精度の両面がある.はじめに,位置精度について述べよう.3.3.1超精密構造解析による量子構造生物学の展開X線結晶構造解析で得られる電子密度分布はその分解能によって得られる情報の質が異なる.1.5 Aを超える分解能になると非水素原子の電子密度が原子ごとに分離し始める.0.8 A分解能以上では水素原子の位置を電子密度で確認できるようになる.タンパク質によって駆動される化学反応の多くは水素が関与するので,タンパク質中の水素原子位置を決めるだけでもタンパク質の働きの仕組みの解明に大きく貢献できる.さらに高い分解能での研究がタンパク質にも適用されて,経験則による束縛を取り去った構造決定および,電子密度とその分布の形状と化学結合の関係を議論できるようになり,三木邦夫名誉教授(京都大学)らは量子構造生物学と称してH +H +新しい研究分野を切り開いている.36)高電位鉄硫黄タンパク質(HiPIP)とNADH-シトクロムb 6還元酵素(b 6R)の電子密度分布解析がそれぞれ0.48 A,37)0.78 A 38)で行われた.従来の経験則とは一致しないいくつかの貴重な実験事実を捉えている.例えば,両タンパク質の補欠分子周辺のペプチドでは平面性の指標であるωが180度から10度以上ずれた構造が多く見つかった.これらは補欠分子からの電子移動特性に影響を与えていると考えられる.[4Fe?4S]クラスター内および配位子CysのSγ原子の電子密度も求められて,電子は1つのFe原子とそれに配位しているS原子に偏っていることが明らかになった.FADのイソアロキサジン環内にはsp 2混成を取ると考えられるN原子が2個存在する.しかし,1つのN原子は電子密度分布からsp 3混成軌道であり,そのN原子はCH-N水素結合を形成している.この水素結合を介した経路は,従来考えられていた経路より短い電子伝達経路である.これらの研究成果は,2つの電子伝達タンパク質の電子伝達の仕組みを解き明かすために重要であるばかりでなく,X線結晶構造解析による電子密度およびその分布の形状に基づいて,結合や原子の化学的性質を解き明かすことができることを強く示唆している.また,タンパク質の構造には,従来の経験則を逸脱する構造が随所にあることを明らかにしたことは,機能メカニズムの解明を目指す構造解析を実施するうえで常に考慮に入れておくべきことである.3.3.2信頼度の高い高分解能精解析による機能メカニズム解明さまざまな生命現象にかかわるタンパク質について,構造研究はタンパク質でしか達成できない巧妙な仕組みによって働いている様子を解き明かしている.Cryo-EM単粒子構造解析も含めて研究対象も拡がりを見せている.一方,画期的と思われる構造研究も突き詰めると,タンパク質機能の仕組みを解き明かすうえで作業仮説を提示する段階に留まっているケースも少なくない.その要因は構造の精度が不十分で,タンパク質によって駆動される化学・物理学を語ることが困難であることに起因している.化学を語るに必要な構造を得るために,鍵となる構造の結晶を調製してその高分解能構造解析を行うことが正攻法である.サブA分解能まで高くなくても有用な構造は多くあるが,注意を要する場合もある.取り分け1.5 A分解能より低い分解能では,周辺と比べて温度因子の高い部分の構造は構造多型を動的揺らぎと看做していることも多々ある.メカニズムを検討する際には,両者の区別は必須であり安易に動的揺らぎと解釈すべきでない.反応機構の議論でよく遭遇するのはカルボン酸のイオン化状態である.1.5 A分解能程度での精密化によっても2種のC?O結合に有意差が出てきて,プロトン化されてい172日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)