ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
生命科学の飛躍のために一層深まるタンパク質結晶学の役割~シトクロム酸化酵素の精密構造解析から見た現状と課題イノウイルスの構造研究では自己集合機構のみならず,抗体や受容体との結合様式も解明された.24)その後,ウイルス粒子内の対称性を利用したCryo-EM単粒子構造解析がウイルスの構造研究の中心的手法になっている.最近,直径1,900 A,T=84,13種のタンパク質で構成されるParamecium bursaria chlorella virusの構造がCryo-EMを中心的手法にして,一部のタンパク質の結晶構造解析を合わせて3.5 A分解能で構造決定された.25)構成要素間の接触の大きさを手がかりに階層的な集合過程を導き出して,複雑なウイルス殻構造が自律的に組み立てられる仕組みを解き明かした.ウイルスの構造形成では,特異的な核酸の取り込みに対する構造のかかわりの研究も重要な課題である.3.2.2リボソーム生体超分子の最も画期的な成果は,2000年に次々に発表された細菌の30S,50S,70Sリボソームの構造である.26)-28)30S,50Sリボソームの骨格構造はそれぞれ16SrRNB33S rRNAであり,それらに種々のタンパク質が結合して,全体構造を構築している.mRNAやtRNAの結合様式もわかってきて,タンパク質合成機構の理解が深められた.またこの結晶構造解析の成功は,生体超分子の結晶構造解析の可能性を飛躍的に高めた.その後,リボソームの創薬などに関する構造研究にはCryo-EM単粒子構造解析法が適用されるようになっている.これはRNAに多いP原子の電子線散乱因子が大きいことの利点を活かしていることによる.リボソームのCryo-EM単粒子構造解析については,多様な構造を分類し,それらを繋げる擬似的な時分割構造解析も行われている.29)この巨大な複合体においてもその機能メカニズムの研究がより高い分解能の構造を求める時代が来るのは必然であり,結晶の高分解能化は依然として重要な課題である.3.2.3 Gタンパク質共役受容体(GPCR)などの離合集散する複合体生体内にはシグナル伝達や電子伝達などにかかわるタンパク質が多くある.GPCRは前者を代表する膜貫通タンパク質であり,視覚,嗅覚,味覚などの神経伝達やホルモンに対する応答にかかわっている.その細胞外領域にシグナル分子(アゴニスト)が入ってくると,細胞内領域でGTP結合タンパク質(Gタンパク質)との結合を誘起して,Gタンパク質を活性化する.2011年にはKobilkaのグループがGPCRの一つであるβ2 adrenergic receptor(β2AR)とGタンパク質の複合体の3.20 A分解能の構造解析に成功して,初めてGPCRによる膜を介したシグナル伝達機構を明らかにした(図3).30)アゴニストが結合することによってβ2ARのヘリックスに大きな構造変化を誘起する.その結果,β2ARと相互作用しているGタンパク質のヌクレオチド結合ポケットの構造に変化をもた日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)図3アゴニストGαβ2 ARGβ細胞外細胞内らして活性化する.この研究でもタンパク質間相互作用による構造変化を把握することができたが,その現象をもたらす化学・物理学の解明には至っていない.それを追求することは必然の道であろう.このほかに一時的に複合体を形成する複合体の結晶構造解析の事例も増えてきた.後で述べるシトクロムc?シトクロム酸化酵素もその一例である.31)これら離合集散する系の研究における最大の課題は試料の調製・結晶化である.3.2.4呼吸鎖複合体Ⅰと呼吸鎖超複合体ミトコンドリアの複合体Ⅰは40以上のサブユニットで構成され分子量約100万の巨大な膜タンパク質である.その全体およびマトリックス側の親水性領域や膜貫通領域の構造は3.3?3.1 A分解能で決定された.32),33)親水性領域は約120 Aの長さがあり,その先端部分にNADHから電子を受けとるFMN部位があり,キノン結合部位は親水性領域と膜領域に囲まれる空洞部分にある.FMN結合領域とキノン結合部位の間には7カ所に鉄-硫黄クラスターがあり,電子移動に都合の良い配置をしている(図4).膜貫通領域にあるサブユニットの構造を見ると,通常疎水性アミノ酸で構成される領域にもかかわらず親水性アミノ酸が連結した配置が4カ所ある.複合体ⅠはNADH当たり4プロトンを能動輸送することから,この4カ所がプロトン輸送経路になっていると提案されている.33)構造に基づいて作業仮設を立てることができ,働きの仕組みを解明する研究の設計が容易になった.FMNからキノン結合部位への電子伝達およびキノンの還元とプロトン能動輸送がどのようにして共役するのかが最大の課題である.そのためには異なる状態の高分解能の構造GγGPCR(β2AR)とヘテロ3量体であるGタンパク質の複合体.(Overall structure of theβ2AR-Gs complex.)GPCRはアゴニストが結合した状態で,Gタンパク質はGTPが結合していない状態である.171