ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
日本結晶学会誌61,168-180(2019)ミニ特集精密構造解析生命科学の飛躍のために一層深まるタンパク質結晶学の役割~シトクロム酸化酵素の精密構造解析から見た現状と課題兵庫県立大学大学院生命理学研究科,大阪大学月原冨武Tomitake TSUKIHARA: Protein Crystallography for Progress in Life Science:A Perspective from High-Resolution Structural Studies of Cytochrome c OxidaseProtein crystallography has elucidated the structures of proteins, thereby deepening ourunderstanding of life phenomena. Not only simple protein molecules but also protein assembliescan be subjected to crystal structure analysis. Subatomic resolution crystallography and timeresolvedstructure analysis make further contributions to life science. On the other hand, cryoelectronmicroscopy(cryo-EM)single-particle analysis has been successfully applied to structuredetermination of biological macromolecular assemblies. An advantage of protein crystallography isthe high accuracy of the determined structure. Elucidation of the chemistry or physics of a proteinmolecule using its accurate structure is an important goal of protein crystallography that contributesgreatly to progress in life science.1.はじめにタンパク質結晶学はタンパク質の立体構造を明らかにすることによって生命現象の理解を深めることに貢献してきた.その対象は単独のタンパク質から始まって,多数のタンパク質の集合体等上位の階層の構造に広がり,構造データバンクに登録されている構造解析総数も15万件を超えている.電子密度分布を決定した超高分解能解析や,構造変化を直接観測する時分割構造解析も出てきて,タンパク質結晶学の生命科学への貢献の新たな可能性を開拓している.さらに構造研究は電子顕微鏡などによる新たな手法が加わって,結晶化困難な生体超分子へも研究対象を拡げ,分子から細胞まで俯瞰できるようになって来ている.構造が明らかになることによって,それまで把握されていた現象をよりリアルに捉えることができるようになり,さらに深い理解に進む基盤を与える.研究が現象の把握に留まらず,その要因の追求に進むのも必然の方向である.結晶構造解析の最大の特徴は精密な構造を決定できることにある.タンパク質機能をもたらす要因を突き詰めることは,原子レベルの精密な構造をもとにタンパク質場における化学・物理学を解き明かすことによって可能になる.ここにタンパク質結晶学の大きな役割がある.2.タンパク質結晶学の手法の現状タンパク質構造解析に不可欠な結晶を得る方法としては,沈殿剤としてポリエチレングリコールなど有機化合物を使用したランダムスクリーニングが主流である.膜タンパク質では,界面活性剤でタンパク質を可溶化して結晶化する方法に加えて,脂質キュービックフェーズ法(脂質メソフェーズ法)1)も1990年代に開発された.X線源としては強力で波長可変な放射光X線が中心であり,1,000 Aを超える格子の結晶の回折像も問題なく観測できる.放射光微小ビームは微小結晶の回折データ収集に威力を発揮している.2010年代になって自由電子レーザー線(XFEL)が時分割構造解析,X線無損傷構造解析を可能にしている.回折実験は凍結結晶による2極低温回折実験法)が通常の手法になっているが,常温実験も可能であることは忘れてはならない.測定方法は振動写真法の原理が踏襲されているが,連続回転による高速データ収集あるいは静止法による多結晶を用いたデータ収集も可能になっている.位相決定法は最初に考案された重原子多重同型置換3(MIR)法)の原理が今も生きている.分子置換(MR)法,4)多波長異常散乱(MAD)法,5)非結晶学的対称による平均(NCSA),6)電子密度の平滑化などを行う電子密度7修正(DM)法)も簡便な位相決定法として汎用されている.コンピュータの進歩と相まった構造解析ソフトウェアーでは,原子パラメーターを精密化するプログラム,モデル作成プログラムは一層ルーチン化されて使いやすくなっている.一方,近年構造解析法として注目されているのは極低温電子顕微鏡(Cryo-EM)単粒子構造解析である.電子顕微鏡では各原子に由来する静電ポテンシャルの総和(EM密度)を観測する.結晶では回折によって精密な平均が行われるのに対して,単粒子構造解析では多数の像168日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)