ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
石井悠衣図2(a)Ba1-xSrxAl2O4の相図(x=0.5~1).(b)x=0.8,(c)x=0.9の同一視野に対する高分解能TEM像([100]m入射).((a)Structural phase diagram of Ba 1-xSr xAl 2O 4(x=0.5~1).(b)and(c)show HRTEM images on the same areawith[100]m incidence.(b)x=0.8(top:293 K, bottom:373 K),(c)x=0.9(top:293 K, bottom:693 K).)上下パネルはそれぞれ, 293 K, 373 K,および293 K, 693 Kでの観察結果を示す.白矢印はP2 1構造のb軸,点線は双晶境界を示す.挿入図は各ドメインでのFFT像である.るため,P2 1構造では3回対称性で関連づけられた回転双晶が形成される.SrAl 2O 4が示す2つの構造相転移(転移温度T s1,T s2)はともに,Ba濃度の増加に伴って抑制される.Sr-rich側の相図を図2aに示す.T s1はx=0.8付近で見られなくなり,T s2はx=0.6付近で急に消失する.T s2は一次転移であり,x=0.6,0.7のT s2付近では,P6 322構造とP2 1構造の共存領域が,それぞれ300 K,100 Kという広い温度範囲に渡って観測される.図2bは,同一視野に対して観察したx=0.8の高分解能TEM像と,対応するFFT像である.上下パネルはそれぞれ,293 K,373 Kでの観察結果である.点線は双晶境界を表す.図からわかるように,温度上昇に伴って,各双晶ドメイン内に新たな双晶境界が現れ,また双晶ドメイン内で結晶方位が回転している.同様の結晶方位の回転は,x=0.9でも観察されている.x=0.9の293K,693 Kでの高分解能TEM像を図2cに示す.293 Kではq 1方向への2倍周期と,それに対応する格子縞が観測されているが,同一視野の693 Kでの高分解能TEM像では2倍周期に対応する格子縞がq 3方向に観察されていることがわかる.つまり,加熱によって結晶粒内で結晶方位が回転している.より広範囲の観察結果については文献8)に示されている.こうした結晶方位の回転は,BaAl 2O 4で報告されてい11る不安定な反位相境界)と類似している.すなわち,BaAl 2O 4では,低温相P6 3が示す反位相境界の形や配置が数十秒の間で変化することが報告されている.本系においても,温度一定のもと高分解能TEM観察を行うと,数秒程度の時間でドメイン内の結晶方位が回転し,新たな双晶境界が現れたり消えたりする挙動が稀に観察さ12)れる.Perez-Matoらによる第一原理計算とモード解析によると,BaAl 2O 4,SrAl 2O 4いずれにおいても支配的なモードはM 2モードではあるが,それ以外にも弱いモードが存在することが指摘されている.つまり,いずれの低温相においても,M2モードの凝縮により最も支配的な歪みのモードは解消されているが,弱い歪みのモードが潜在的に残っていることを意味する.この潜在的な構造不安定性を反映して,x=0.8や0.9などSr-rich側の化合物で不安定なドメイン構造が見られている可能性がある.謝辞本研究は,塚崎裕文博士(大阪府立大学),河口彰吾博士(高輝度光科学研究センター),森茂生教授(大阪府立大学)との共同研究によって行われたものである.関係の方々に深く感謝の意を表します.また本研究の成果の一部は,村田学術振興財団研究助成を受けて得られたものである.文献1)S. E. Rowley, et al.: Nature Phys. 10, 367(2014).2)M. Yoshizawa, et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 81, 024604(2012).3)W. C. Yu, et al.: Phys. Rev. Lett. 115, 207003(2015).4)Y. Ishii, et al.: Phys. Rev. B 93, 134108(2016).5)S. Kawaguchi, Y. Ishii, et al.: Phys. Rev. B 94, 054117(2016).6)E. Tanaka, Y. Ishii, et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 53, 09PB01(2014).7)Y. Ishii, et al.: Sci. Rep. 6, 19154(2016).8)Y. Ishii, et al.: J. Solid State Chem. 249, 149(2017).9)K. Momma and F. Izumi: J. Appl. Crystallogr. 44, 1272(2011).10)M. Avdeev, et al.: J. Solid State Chem. 180, 3535(2007).11)A. M. Abakumov, et al.: Phase Trans. 71, 143(2000).12)J. M. Perez-Mato, et al.: Phys. Rev B 79, 064111(2009).158日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)