ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No3
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日本結晶学会誌Vol61No3
吉朝朗,徳田誠,三澤賢明図1 Pnm2 1-As結晶構造の(001)投影.(Crystal structureof Pnm2 1-As projected on(001).2))黒枠は単位格子.図2 Pnm2 1-As構造の(010)投影と多形間での構造比較.(Structure of Pnm2 1-Asprojected on(010).2))Pnm2 1-Asでは灰色ヒ素と黒ヒ素の構造単位が1:1で混合し,規則的に配列している.図3 Pnm2 1-As結晶での共有結合,ファンデルワールス結合,反結合.(Covalentbonding(strong bonding), van derWaals bonding(weak bonding)andanti-bonding in Pnm2 1-arsenic. 2))のように2つの部分に分けることもできる.図2では,Pnm2 1相,R3_m相,Bmab相の結晶構造を比較している.Pnm2 1-Asの構造は,R3_m-AsとBmab-Asの構造単位が1:1で混在し,規則的に配列していることがわかる.結合角および結合距離は,化学結合特性および結合電子の軌道の有用な指標であるため,多形間での比較を行った.平均角度の94.45°に対して,それよりも大きい角度をもつAs3(98.2°)とAs4(96.3°),小さい角度のAs1(89.4°)とAs2(94.0°)のグループに分かれる.Pnm2 1-Asの層内および隣接層間のAs-As距離は,R3_m-AsとBmab-Asの中間の値である.隣接層間のファンデルワールス結合距離は,R3_m-Asでの3.21 AからBmab-Asでの3.81 Aまで大きく変化する.Pnm2 1-As結晶の外形(晶相・晶癖)と単位格子・構造との関係は原著論文を参照されたい.b軸に平行に結晶表面((001)面上)の条線と双晶境界が観察される.R3_m-As部とBmab-As部はb軸に平行に連なり,R3_m-As部とBmab-As部の周期性に変化が生じると双晶が起こる.3.第一原理計算シミュレーションによる電子構造の解析実験により決定したPnm2 1-As結晶の格子定数,格子体積,原子座標は,第一原理計算シミュレーションにより,各値が1%以内の違いで最適化される.2,5)共有結合,ファンデルワールス結合,反結合の様子を図3に示す.As原子周辺2の三次元的な結合の状態は,原著)を参照されたい.反結合は層内の原子間のみで観察される.ファンデルワールス結合は,隣接層間(例えば,As1…As3,As2…As4',As2…As3')に見られ,層内(Bmab-As部にあたるAs1…As4'とAs4…As1')にも一部存在する.シミュレーションにより,2)共有結合では,pp混成の寄与が最大で,pd混成とsd混成の寄与がそれに続くことが明らかになった.p軌道の特性が多く保持され,sp混成の寄与はまったく認められなかった.ファンデルワールス結合では,sd混成とpd混成の寄与が重要であり,pp混成の寄与がそれに続く.d軌道は,共有結合と,特にファンデルワールス結合に大きく関与している.Pnm2 1-As結晶での各原子の実効電価と電価に対する各軌道の寄与を表1に示す.各電価totalがAs1,As1',As2,表1 Pnm2 1-As結晶の各原子の実効電価と電価に対する各電子軌道の寄与.(Atomic net charge(Mulliken's populationof electrons)and contribution of each orbital to atomic chargein Pnm2 1-type arsenic crystal.)spdtotalAs11.862.870.264.99As1'1.862.870.264.99As21.842.900.244.97As2'1.832.890.254.97As31.842.870.315.02As3'1.842.870.315.02As41.842.870.315.02As4'1.842.870.305.01average1.842.880.285.00As2'部とAs3,As3',As4,As4'部でそれぞれ正と負に分かれていることは,最も重要な結果である.全原子の平均電価の5.00からのずれは電子の移動を示す.As2の4.97とAs3の5.02の値は,それぞれ+0.03と-0.02の,正と負の電価に対応する.この電価の二極化は,d軌道の寄与の明確な違いによって引き起こされている.R3_m-As部に対応するAs1,As1',As2,As2'では,総電価に対するd軌道の寄与が明らかに少なく,d軌道の寄与の減少を補うために,sとp軌道の寄与が増加している.シミュレーションの結果はPnm2 1-Asのユニークな電子状態を示している.Pnm2 1-As構造の研究は物質科学的に重要である.単体元素よりなる結晶中で,正および負に帯電した部分の混在が起こりえることが示されている.正および負の部分がb軸に平行に連なり,層構造中でa軸方向に規則的に配列している(図1).層内で電子供与体と受容体が一次元的に交互秩序配列した単元素結晶は初めての発見である.この面内異方性の強い構造は,オプトエレクトロニクスなど機能デバイスとしての潜在的用途が計算から得られている.この天然産単元素結晶は,高い機能性を実現するための化学結合制御や新規量子材料デザインへの指針を提供してくれる.文献1)S. Matsubara, et al.: Mineralogical Magazine 65, 807(2001).2)A. Yoshiasa, et al.: Scientific Reports 9, 6275(2019), https://doi.org/10.1038/s41598-019-42561-8.3)J. Kim, et al.: Science 349, 723(2015).4)T. Kikegawa, et al.: J. Appl. Cryst. 20, 406(1987).5)F. Shimojo, et al.: Comput. Phys. Commun. 140, 303(2001).156日本結晶学会誌第61巻第3号(2019)