ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2
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日本結晶学会誌Vol61No2
クリスタリット構造因子は電子密度のフーリエ変換であるので,異なる原子間のAOの積をフーリエ変換する必要がある.異なる原子間のAOの積をフーリエ変換したものを二中心散乱因子という.二中心散乱因子は電子軌道にMOを取り入れると派生するが,X線回折強度測定の精度と比べると無視できると考えられていた.しかし,最近の研究では,簡単な有機化合物結晶の30%以上の反射で二中心散乱因子の構造因子への寄与は構造因子の1%以上あることが明らかになった.(名古屋産業科学研究所田中清明)X線原子軌道解析/X線分子軌道解析(XAO/XMO解析)X-ray Atomic Orbital Snalysis/X-ray MolecularOrbital Analysis(XAO/XMO Analysis)電子密度解析法には,X線回折法で測定した電子密度を再現する変数を求める多極子展開法と,波動関数を求める方法がある.XAO/XMO解析は後者に属する.第一遷移金属までの原子からなる結晶のXAO解析では,外殻のすべてのs,p,d軌道を,各1,3,5個の実基底関数で展開し,その展開係数を,AO間の規格直交条件を満足する最小二乗法で,AOの占有電子数とともに結晶の電気的中性を保ちつつ決定する.例えばp軌道の場合,p x,py,p z軌道の一次結合として3個のp軌道を決定する.p,d軌道の展開係数は,原子の席対称が,各,斜方対称,六方対称以上では既定である.全角運動量jは,軌道角運動量lとスピン角運動量sの和であるので,第一遷移金属原子よりも重い原子の場合,p,d,f軌道の基底関数はj=|l-1/2|とj=l+1/2に分かれ,AOは2j+1個の基底関数で展開される.例えば,d軌道は,j=3/2,j=5/2に対応して各4,6個の基底関数で展開される.j=3/2,5/2,7/2のとき,原子の席対称が,各,3回,6回,立方対称以上では,展開係数は既定である.XMO解析では単独あるいは複数のガウス型関数からなるAOを基底関数とする分子軌道(MO)の展開係数を上述の最小二乗法で決定する.(名古屋産業科学研究所田中清明)多極子モデルMultipolar Model通常の構造精密化では,原子のもつ電子密度は原子核を中心として球対称に分布しているとするIndependentAtom Model(IAM)という近似が用いられている.原子中の電子密度に非球対称性を考慮に入れた原子散乱因子を用いて,化学結合などによる電子密度分布の変形を構造モデルに取り入れる方法を多極子解析方法という.この方法では結晶中の電子密度分布がより正確にモデル化できるので,原子軌道中の電子数や結合電子状態を,理論計算との比較を含めて議論することができる.ただし,精密化するパラメータの数が増えるため,回折データの質と量および解析過程には注意が必要である.(㈱リガク応用技術センター佐藤寛泰)142日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)