ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2
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日本結晶学会誌Vol61No2
クリスタリットIsosurface Static Model MapAIM(Atoms In Molecules)理論AIM theorem電子密度分布を解析する手法の1つ.AIM理論では,内殻電子も含めた全電子密度分布をベクトル解析の手法によって解析する.この手法で,電子密度分布の一階微分が0になる点,すなわち,極値をcritical pointと呼び,極大値が原子位置となる.極小値は,2原子間結合,環,かご構造の形成を示す.各構造における極小値をそれぞれ,bond, ring, cage critical pointと呼ぶ.特に,2原子間を結ぶ電子密度最大の経路(山の尾根のようなイメージ)をbond pathと呼び,bond path上のbond critical pointにおける電子密度値,二階微分値(Laplacian),結合楕円率が結合の性質と強さを表す.電子密度の二階微分値を等高線で表した図をLaplacian図と呼び,結合電子などの価電子の分布をハイライトした図が得られる.(国立研究開発法人理化学研究所橋爪大輔)多極子展開法Multipole Expansion MethodX線や電子線回折データの解析において,結晶中の全電子密度分布をモデリングする方法.通常の構造解析では,回折データに含まれる全電子密度分布を,球状(孤立)原子モデルを使って近似する.この方法では,価電子の分布を電子密度分布モデルに含めることができない.これに対し,多極子展開法では,各原子の電子密度分布を内殻電子と外殻電子に分け,非球状に分布する外殻電子の密度分布を球面調和関数で近似し,価電子の分布を含む電子密度分布モデルを構築することができる.球面調和関数は波動方程式の方位成分の導出に用いられるものであるので,原子軌道に類似した非球状分布の構造モデルを得ることができる.電子密度分布の非球状化の原因である,外殻軌道電子の分布と熱振動に別のパラメータを割り振るので,温度因子の寄与を除いた電子密度分布を得ることができる.一方で,分子軌道を考慮したモデリングを行うことができない.(国立研究開発法人理化学研究所橋爪大輔)日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)電子密度分布解析によって得られる,熱振動の影響を除いた差フーリエ図を等電子面で描画した図を指す.多極子展開法に代表される電子密度分布解析では,電子密度分布の非球状部分を,それぞれ外殻電子密度分布および,熱振動による寄与に数学的に分離することができる.したがって,熱振動項を除いたパラメータでフーリエ合成を行うことで,熱振動の影響を除いた電子密度分布を得ることができる.このときの差フーリエ図を特にstatic model mapと呼び,価電子の分布を明瞭に示すことができる.Static model mapを三次元で表示する場合,等高線を図中に描画することが難しいので,任意等電子面で正・負の電子密度分布を示すと便利である.この図を,Isosurface static model mapと呼ぶ.(国立研究開発法人理化学研究所橋爪大輔)カスプCusps軌道は原子核上に鋭く高い尖頭をもつ.これをカスプという.水素様原子の1s軌道関数は,原子番号,ボーア半径,原子核からの距離を,各,Z,a,rとすると,指数部exp(-Zr/a)をもつので,r→0で尖ったピークをもち,r→∞まで長く尾を引く.そのため,同様な指数部をもつスレーター型軌道(STO:Slater-type orbital)が量子化学計算で使用されたが,分子軌道法で大量に必要になる多中心積分を行うには,数値積分によるしかない.一方,指数部にexp(-αr 2)をもつガウス型関数(GTO:Gaussian-type orbital)を用いると,多中心積分は数学的関数で表現できる.そこでSTOを最もよく再現し,エネルギーも低くなるように複数のGTOの一次結合でSTOを表現する方法が研究され,4-31Gなどのさまざまな基底関数が登録された.電子密度解析の残渣電子密度図でカスプがないようにするには,大きな指数部の係数αをもち,多数のGTOで構成される基底関数を使用する必要がある.(名古屋産業科学研究所田中清明)二中心散乱因子Two-Center Scattering Factor分子軌道法では,分子中の電子は分子全体に拡がる分子軌道(MO:Molecular orbital)に属すると考え,分子を構成する原子の軌道(AO:Atomic orbital)の一次結合でMOを表現する.これをLCAO-MO(Linear combinationof atomic orbitals-MO)という.電子密度は波動関数の絶対値の2乗であるので,電子密度の表式の中には,MOを構成する異なる原子間のAOの積が存在する.一方,141