ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2
- ページ
- 70/88
このページは 日本結晶学会誌Vol61No2 の電子ブックに掲載されている70ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol61No2 の電子ブックに掲載されている70ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol61No2
日本結晶学会誌61,136-137(2019)高良和武先生を偲んで日本結晶学会の第11代会長(1972~1973)を務められた高良和武先生(写真1)が,本年1月31日に97歳でご逝去されました.2月9日に告別式が行われましたが,その日は高良先生の満98歳の誕生日でした.4月上旬には,数えで99歳をお祝いする白寿祝賀会を予定していて,新元号に関する話題も含めて,高良先生と色々とお話ができることを楽しみにしていただけに,残念でなりません.1年前の同日(1月31日)のほぼ同時刻に奥様の芳枝かずあき様がご逝去された,ということをご子息の和晶さんからお聞きし,高良先生ご夫妻の深い絆が感慨深く思い起こされました.昨年11月4日には毎年恒例の「高良先生を囲む会」を学士会館で行い,高良先生はとてもお元気な様子で3時間あまりの会に最後までご参加され,楽しい一時を過ごしました.その後の11月末に体調を急に崩され入院されたとお聞きしました.ちょうど2カ月間のご入院でした.診断は老衰とのことでしたので,高良先生は天寿を全うされたのだと確信しました.高良和武先生は,東京大学をご退官後,フォトンファクトリーの初代施設長や日本放射光学会の初代会長を務められ,結晶学および放射光科学の分野で先駆的な研究をされるとともに,研究分野全体を大きく牽引されました.高良先生のご専門は,「動力学X線回折理論とその応用研究」で,シリコンなどの完全結晶を用いた精密X線光学系の開発とその応用(X線トポグラフィー法を用いた半導体中の格子欠陥を可視化する研究)です.X線が完全に近い結晶に入射した場合,結晶中では多重散乱が起こります.動力学X線回折理論は,完全結晶中で多重散乱を起こすX線の振る舞いを,X線が結晶中の分極と混合状態(ポラリトン)を形成して伝搬する現象として取り扱う理論です.動力学X線回折理論を用いると,完全結晶による回折波の反射率は100%(吸収のない場合)になること,その回折積分強度(正確には回折幅)が結晶構造因子の一乗に比例するという結論が導かれます.これは,回折積分強度が結晶構造因子の二乗に比例するという従来の回折理論(=運動学的回折理論)の結論とは大きく異なります.PFやSPring-8で用いられているシリコン二結晶モノクロメータは,動力学X線回折理写真1高良和武先生2016年1月,「高良先生を囲む新年会」にて論に基づいて設計されたものであり,その基礎技術は我が国では高良研で開発され,その後,高良研出身の(故)松下正さん(PF)や石川哲也さん(理研)がその研究を引き継がれ,放射光科学におけるX線分光器の技術を発展させました.私が卒論で高良研究室に配属されたとき(1973年5月)は,高良先生はPFの建設に向けた活動で忙しく,高良先生にお会いできるのは週に一度の高良研コロキュームのときのみでした.私の卒論は,「小角X線散乱を用いた筋収縮機構の解明」に関するテーマで,医学部に出入りしていたので,動力学X線回折理論は不勉強で,コロキュームの内容はわからないことだらけでした.そんなわけで,高良研コロキュームで研究室のメンバーが紹介した研究内容は,今ではほとんど覚えていません.しかし,今でもはっきりと覚えていることは,高良先生が2年間(1955.9~1957.12),ドイツのフリッツ・ハーバー研究所に客員教授として滞在されたときの数々のエピソードです.ちなみに,フリッツ・ハーバーは空気中の窒素からアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法を発明したことで知られるノーベル化学賞受賞者です.高良先生から,ドイツ滞在中に深い交流のあったラウエ先生(当時,フリッツ・ハーバー研究所長)とのエピソードをよくお聞きしました.ラウエ先生は皆さんご存じのマックス・フォン・ラウエ(1879~1960)で,1914年にノーベル物理学賞を受賞した方です.高良先生は,「ラウエ先生は知的好奇心が大変に旺盛136日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)