ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2
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日本結晶学会誌Vol61No2
粉末X線回折による精密構造解析が原因かはわからなかった.そこで,粉末回折の結果とWIEN2kの結果の差分を取り,その違いを可視化した.図6aに可視化した差分を示す.原子周りにあたかも原子軌道のような電子密度のピークが観測された.これまで,アルミニウムに関しては,10種類以上の理論計算の結果が構造因子として1990年までにすでに報告されていた.原子軌道的な電子が利用されるのは原子軌道の線形結合を利用する強束縛近似である.過去に計算され12た,強束縛近似の理論計算による構造因子)と今回の粉末回折の結果を比較した.図6bに比較の結果を示す.4本目の強度の減少を強束縛近似の結果はよく表していることがわかる.差電子密度分布の結果と,構造因子の一致度を相互的に判断し,今回の粉末回折の結果と収束電子回折の両者でみられる311反射の減少はアルミニウム金属に強束縛近似的な原子軌道成分が残っているためと結論付けた.研究を始めた当初は,方法の精度の検証を目的としており,論文になるような新事実が出るとは予測もしていなかったが,運良く新事実を見つけることができたため最終的に原著論文として発表することができた.構造因子,電子密度すべてが矛盾なく説明できる解釈を得られたことは幸運だったと感じている.3.高温粉末電子密度解析のためのBAS2 5 0 0イメージングプレートデータのデータ補正本稿のもう1つのテーマとして,高温のデータの電子密度解析のためのIPデータのデータ補正について簡潔に要点のみ述べさせていただく.一般に物質の電子密度分布に対する温度の影響は熱振動を畳み込めばよいと考えられている.本当にそれだけで良いのか?それを検証した研究があるのか?と思い調べてみたところ,該当する研究を見つけられなかったため実施した研究である.アルミニウム項の図1にあるようにほとんどの物質で高温では高角の強度が著しく減衰する.このため同じ物質であっても温度を変化させ,同一分解能の電子密度解析をすることは容易ではない.そこで,試料として,デバイ温度が2,000 Kと高いダイヤモンドを選択した.ダイヤモンドであれば100 Kの温度変化でも同じ分解能のデータが利用可能と考え取り組んだ.分解能を保って,同じ物質のデータの比較として高温と室温(もしくは低温)の比較を行った.図7に30~800 Kまでのダイヤモンドの粉末回折パターンの温度依存性を示す.データはSPring-8のBL02B2でIPを用いて測定されており,測定波長は0.328 Aである.図1のアルミニウムと比較すると温度の影響は小さく,400 Kまでは格子定数,強度ともにほとんど変化が見られない.400 K以降は,格子の拡大と強度の減衰が高角領域で確認された.以上のデータから,日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)図7ダイヤモンドの粉末回折パターンの温度変化.(Temperature dependence of powder profiles fordiamond)室温と,800 Kのデータを同じ分解能で解析し,温度の電子密度に与える影響の精密計測を目指した.そのために,この2つの温度について,角度範囲を3種類変更させ,2θに垂直方向の積算幅を2種類変更した6種類のデータを解析に用いた.まず,300 Kのデータを解析したところ,短波長の利用と高角領域の統計精度を高めたことにより,d>0.21 Aまでの104本のBragg反射を解析に利用可能なことがわかった.多極子展開により電子密度分布を求めたところ,R=0.86%であった.800 Kのデータでも同じ角度領域までBragg反射を目視でなんとか確認できるもののバックグラウンド領域にノイズ混入が大きかった.この領域の解析の可能性を調べるために,データのバックグラウンドノイズを解析した.図8にバックグラウンド領域の強度のヒストグラムとヒストグラム作成に使用したデータを示す.6種類の統計精度の異なるデータすべてについて示した.図8a,図8c,図8b,図8e,図8d,図8fの順に統計が高くなっている.統計の低い図8a,図8c,図8bのデータのヒストグラムはガウス分布的であるが,高統計の図8e,図8d,図8fのデータでは分布が広がったり2山になったりしているように見えることがわかる.ガウス分布的な形状はランダムノイズを示している.このことから,統計が高い領域ではランダムノイズだけでは表せないノイズが存在することがわかった.ノイズを解析するため,回折データのフーリエ級数展開を行った.図9a,図9bに結果を示す.図9aがcos項,図9bがsin項である.統計の最も高いデータのフーリエ級数の6データ点周期に相当する位置にピークが観測された.これは6データ点周期のノイズの混入を示している.イメージンプレートリーダーBAS2500は読み取りの際のレーザーの方向を変化させるために,6面のポリゴンミラーを採用している.このミラーの変化による強度変調を表していると考えられる.補正を行うために,Bragg反射領域を除いたデータを6点ごとに足し上げ,その強度を比較した.図9cに足し上げた強度とその変化量を示す.最大で0.4%の強度の変調が6点周期で存127