ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2
- ページ
- 59/88
このページは 日本結晶学会誌Vol61No2 の電子ブックに掲載されている59ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol61No2 の電子ブックに掲載されている59ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol61No2
粉末X線回折による精密構造解析RF=0.08%図2回折パターンのバックグラウンド領域と熱散漫散乱.(Background regions of diffraction patters and thermaldiffuse scatterings.)散乱については,その強度が一次と比較して600Kでも十分弱いことが確認できたため,30 Kの解析では一次と同様に無視した.それ以外に金属の回折パターンに含まれる熱振動に関連した要因として,非調和熱振動の寄与がある.プログラムXD2016を用いて,30 K,100 K,200 K,300 Kの非調和熱振動を調べた.非調和熱振動を四次までのGram-Charlier展開で表した場合,サイトの対称性O hから精密化可能な項はD1111=D2222=D3333とD1122=D2233=D1133のみとなる.30 K,100 K,200 K,300 Kでこれらのパラメータを調べたところ,100 K以下でD1111,D1122の値は無視できるほど小さいことが判明した.よって30 Kのデータの電子密度解析ではこの効果も無視した.結局30 Kではこれらすべての効果が無視できることがわかり,30 Kのデータでは通常の解析法で電子密度解析を進められることがわかった.一方,300 Kでは熱散漫散乱,非調和熱震度ともにパターンに情報が含まれることもわかった.電子密度分布の温度依存性を調べる際の注意点を明確にできたことは有意義であったと感じている.2.2アルミニウムの観測構造因子と電子密度分布30 Kのデータから観測強度を見積もり,XD2016 11)を用いて電子密度分布を求めた.解析で求めたスケール因子により観測強度をスケーリングし,観測構造因子を求めた.これらの値の評価のために,WIEN2kを用いて構造因子を求めた.WIEN2kの計算条件は,P. Nakashimaらの報告を参考にした.詳細は原著論文に記載したためそちらを参照されたい.WIEN2kと観測値の電子密度の比較のためにWIEN2kで求めた構造因子をXD2016で解析して電子密度分布を求めた.このプロセスは日本の研究者にはあまりなじみがないかもしれないため,説明を加えておく.XD2016は,実験および理論値の電子密度解析ソフトウェアであり,理論計算の電子密度の評価にもその解析結果が用いられる.l=4までの多極子項の利用と各多極子項で調日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)-0.023 0.034step: 0.010 e/A? 3図3理論構造因子の多極子展開による残差電子密度分布.(Residual density of multipole refinement.)整可能なκパラメータにより,物理的に意味があるないは別として,信頼度因子R=0.001以下の一致度で理論計算の構造因子に一致する電子密度を求めることができる.本研究でWIEN2kの構造因子を解析した結果を残余電子密度分布として図3に示す.残余は原子核周りの最大値でも0.04 eA-3を下回っている.核周り以外の結合部分で視るとその値は0.01 eA-3を下回っており,ほぼ差がないとみなすことができる.このようにして,実験データと理論の両者を多極子展開で解析してその差異を比較することで,少なくともこの差密度に見られる残余電子密度より有意とみなされる微弱な電子雲の変化について議論できる.最初に,構造因子について示す.単体金属の場合,その電子のほとんどが原子核周りに集中しているため,実験値と球状の原子を配置させた独立原子モデル(Independent atom model:IAM)との値の差は一般に非常に小さい.例えば,強い共有結合で知られるダイヤモンドでは,低角の反射で最大10%以上のIAMからの差が見られるが,P. Nakashimaの2011年の報告ではその差は0.5%以下である.この差を見やすくするため,構造因子のIAMに対する比率を111反射で規格化して示す.各反射における1.0からのズレが金属結合を表す電子密度の変調に起因する.図4aに放射光粉末法による実験値,P. Nakashimaらによる収束電子回折の実験値,WIEN2kによる計算値を示す.最初の3本の反射の1をまたいだ変調は3つの場合でよく一致している.また収束電子回折の結果は,3本目を境に高角にいくにつれて誤差が急増しているのに対し,粉末回折の結果には,そのような増加は7本目までは見られないことがわかる.また,粉末回折と収束電子回折は4本目で比率が減少し,5本目で増加しているのに対し,WIEN2kの結果では4本目での減少がほとんど見られない.以上のように実験値同士は5本目まで整合しており,4本目の値がWIEN2kの値と異なることがわかった.125