ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2

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概要

日本結晶学会誌Vol61No2

佐々木友彰,出口裕佳,笠井秀隆,西堀英治れが本稿のメインテーマの1つであるアルミニウムの電子密度解析である.研究が終わって振り返ってみると,この研究は,古くから進められてきた金属のX線回折の研究の歴史を学びなおす機会をわれわれのグループに与えてくれたと感じている.まず,この研究について,原7著論文)には記載しなかったことも含めて述べる.2.1アルミニウムの放射光粉末X線回折実験とデータ解析2.1.1放射光X線回折実験本研究の目的は,収束電子回折と比較すれば汎用的な計測法である放射光粉末X線回折による電子密度観測である.試料は一般に入手可能なアルミニウム粉末とした.粒子サイズについては,強度分布が均一なデバイリングを得るには数ミクロン以下である必要があるため,条件を満たすものを探した.最終的に,高純度化学社製の平均粒子径3ミクロンの試料を選択した.粉末試料の粒度の選別などは,大気中での酸化を避けるためまったく行わなかった.購入したそのままの試料を,アルゴンガスで置換されたグローブボックス中で直径0.4 mmφのガラスキャピラリーに封入した.放射光粉末X線回折実験はSPring-8のBL02B2 8)にて行った.検出器には電子密度解析で実績のあるイメージングプレート(IP)を使用した.入射X線の波長はBL02B2の最短波長である37 KeV,0.328 Aとした.測定温度は,30 K,100 K,200 K,300 K,400 K,500 K,600 Kとした.30 KではHeガス吹付け装置を使用した.その他の温度では窒素ガス吹付け装置を使用した.各々のデータは低角領域と高角領域を,IPカメラの2θ軸上の位置を移動させ,時間を変化させて測定した.典型的な測定時間は低角が30分,高角が120分であった.2.1.2熱散漫散乱などの回折データの評価図1に粉末回折パターンの温度変化を示す.高角の領域を示した.高角領域のBragg反射強度が温度に伴い減衰する様子がわかる.アルミニウムはデバイ温度390 Kであり,それ以上に相当する400 K,500 K,600 Kでは強度の急な減衰が確認できる.温度変化データにおけるすべての反射を確認したところ,歪や欠陥および積層不整に由来する回折線幅の広がりは観測されなかった.第一原理計算から,アルミニウムは積層欠陥が起こる可能性がほぼないことが報告されている.9)本研究の測定データはこのことと矛盾しなかった.よって,データの解析では,歪や欠陥および積層不整の影響を無視した.温度によって減衰した強度は,熱散漫散乱となりバックグラウンドに含まれるため,正確な構造因子の測定には熱散漫散乱の混入量を見積もることが望まれる.本研究では,回折データのバックグラウンドの強度変化から熱散漫散乱の量を見積もった.その方法をここで述べる.図1アルミニウムの粉末回折パターンの温度変化.(Temperature dependence of powder profiles foraluminium.)一次の熱散漫散乱強度G(X)を式(1)のHerbsteinの10式)により計算し,その影響を見積もった.G( X )2? 1( 3π)3 1 j ?hkl=∑sinhln2χhkl ?1 X X6hkl?1{ ?(χ)+χ?} 1 ?1?4?sinh?χ?π?? ??2 ?3???????????3X?Xhkl(1)ここで,?(χ)はデバイ積分,χ=Θ/Tで,Θ:はデバイ温度,Tは測定温度,χ=2asinθ/λ,j hklはhkl反射の多重度,X hkl=2asinθhkl/λである.図2に600 Kの回折パターンと式(1)で計算した一次の熱散漫散乱強度を示す.式を見るとわかるように,この式はBragg反射の位置で発散する.Bragg反射位置のδ関数的な突起はこの影響であり,物理的に意味はまったくないため無視していただきたい.計算されたパターンは2θ=15°付近のバックグラウンドの特徴をよく表している.図2に30 Kの回折データも合わせて示す.600 Kとの比較から熱散漫散乱の量を定性的に見積もれることがわかる.600 Kの計算値から各温度における散漫散乱強度を見積もった.その結果,100 K,30 Kではその強度はバックグランドの揺らぎ以下となり無視できることがわかった.そこで30 Kのデータを電子密度解析に用いた.二次,三次の熱散漫124日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)