ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2

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概要

日本結晶学会誌Vol61No2

日本結晶学会誌61,123-129(2019)ミニ特集精密構造解析粉末X線回折による精密構造解析筑波大学数理物質科学研究科佐々木友彰,出口裕佳筑波大学数理物質系物理学域・エネルギー物質科学研究センター笠井秀隆,西堀英治Tomoaki SASAKI, Yuka DEGUCHI, Hidetaka KASAI and Eiji NISHIBORI: AccurateCharge Density Study of Aluminum from Synchrotron X-ray Powder DiffractionX-ray charge density is one of the most information rich observables in natural science. We havedeveloped the diffractometers and measurement techniques for X-ray charge density study at one ofthe third generation synchrotron radiation source SPring-8. Very small amounts of aspherical electrondistribution of a pure metal aluminum were observed in the static deformation density. A signal tonoise ratio of high temperature powder diffraction data was improved by the data correction based onFourier analysis.1.はじめにX線電子密度解析の最近の状況について執筆するよう依頼を受け,これまでに書いたもの以外でいくつかのト1ピックを探したところ,2017年の学術賞受賞論文)にかなり最近の研究までカバーされていることが判明した.その後の1年程度の間の成果に絞ろうと内容を考えたが,トピック同士につながりがあるわけではないため,幅広くとらえた漠然としたタイトルになった.テーマは2つあり,1つは単体金属の電子密度解析でありもう1つはデータ補正である.電子密度解析を中心に述べ,最近の研究である補正の話は付加的に述べる.著者には4名の名前が並んでいるが,本稿執筆の責任は西堀にあることを最初に付記しておく.残りの3名は実際に実験やデータ解析,データに対する検討を行い研究を進めた方々である.今回のテーマは,試料は市販で購入可能で,装置も共同利用施設であり申請し採択されれば利用可能である.研究自体は,何となく気になっていたことの検証をしようとした試みが研究成果へと繋がった結果であり何とか論文発表まで漕ぎつけられて今となってはよかったと考えている.2.アルミニウム単体金属の電子密度解析X線回折の歴史の中で,銅やアルミニウムのなど金属は古くからその対象として幅広い研究が行われてきた.今から50年前に初版が発行され,今でも広く使用される教科書Warrenの「X-ray Diffraction」2)の中でも11章~13章のかなりの部分が金属を題材とした散漫散乱や,Disorder構造,積層不整などの記述に充てられている.その意味で,金属はX線回折の初期からその題材とされ,日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)単体金属の研究はやり尽くされているとみなされている物質である.電子密度の研究も進められていたものの,1990頃までの金属の研究は再現性が乏しく,3)報告ごとに結果が異なるような状況であったようである.2011年に収束電子線回折によるアルミニウムの電子4密度分布がScience誌に掲載)され,電子密度解析の分野の中で注目を集めた.1990年代までのさまざまな実験の不一致を解決し,真の金属結合の電子密度を観測し,金属結合と機械的性質であるヤング率との相関を解明することに成功したためである.この研究では,収束電子線回折の観測構造因子と,WIEN2k 5)で求めた計算構造因子が利用された.実際に金属結合の観測に利用されたBragg反射の本数は最低次の111,200の2本のみであった.これは,WIEN2kで金属結合の構造因子と球状原子の足し合わせの構造因子を比較した際,220以降の反射ではほとんど差が見られなかったためである.この研究は,シンプルな物質の新しい研究の端緒を開いた研究と6なり,Quantum Crystallographyのレビュー論文)などにもたびたび取り上げられている.2018年にカナダのハリファックスで行われたSagamore2018でPhilip Nakashimaにその後の展開やほかの物質への応用を聞いてみたところ,進めてはいるものの今のところ新しい結果は出ていないとのことであった.われわれのグループではダイヤモンドやシリコンなどの無機材料の精密な電子密度観測をSPring-8の粉末X線回折データを利用して進めていた.著者の一人である佐々木友彰氏が金属間化合物の金属結合を観測したいと研究グループに加わった際に,アルミニウムの研究を示して,放射光粉末回折データでの観測への挑戦を促したところやる気になって進めてくれることになった.こ123