ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2
- ページ
- 54/88
このページは 日本結晶学会誌Vol61No2 の電子ブックに掲載されている54ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol61No2 の電子ブックに掲載されている54ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol61No2
田中清明(a)(b)図11 DFHの(a)MO7(ag),(b)MO22(bu)の電子密度図.(Electron densities(upper)and the difference betweenexperimental and theoretical electron densities(lower)of(a)MO7(ag)and(b)mo22(bu)orbitals.)等高線は図10と同じ.上段,下段は各々XMO解析で求めたMOの電子密度およびXMOで求めたMOとGAUSSIAN09で計算したMOの電子密度の差.瞬間における分子構造に対応して,瞬時にMOは変化する.X線回折法では少なくとも数秒以上の時間をかけて強度測定を行うので,XMO解析で求めたMOは,MO理論で求められたものとは異なり,分子の熱振動により変動するMOを平均したものであり,現実のものに近いMOである.3.3.3 XMO解析法の課題XMO解析法は誕生したばかりであるので,課題が山積している.以下1~4の課題が思い浮かぶ.1式(1)で提示された任意の物理量を求める手法を開拓すること,2結晶の周期性を利用して分子間相互作用を取り込み,イオン結晶などに適用すること,3中性子回折法の併用,4計算時間を大幅に短縮するために,プログラムのベクトル化を行うこと,などである.課題1で,式(1)のエネルギーを求める場合,周期ポテンシャルの定式化が必要である.これはこれまで議論されて基本的には解決されていると考えられる.ほかの物理量も同様であろう.課題2では,構造因子は電子密度の周期的な連続性を利用しているので,MOを隣接する単位格子のMOと連結するだけで,結晶全体に広がるMOが自動的に構造因子に取り込まれる.したがって,遷移金属を含むイオン結晶などの電子密度も容易に取り扱われ,配位結合の性質の本質的な理解が深まるであろう.課題3では,原子座標が変わると,すべてのGTO間の二中心散乱因子を計算し直す必要があるので,膨大な計算時間が必要になる.中性子回折法で正確な原子座標と温度因子が得られ,XMO解析でこれらを定数とできれば,この問題は解決する.また,水素原子位置はXMO解析で真の値に近くなったと思われるが,非常に不安定な変数であることには変わりはない.中性子構造解析とXMO解析法の協同が必要となろう.課題4では,XMO解析では膨大な計算が行われる.XMO解析を一般化するためにはこの課題の克服は必須である.4.今後の展望化学結合を形成する電子はすべての物性の鍵を握る.著者はこの点を恩師齊藤喜彦教授に訴え,電子密度解析をテーマとして研究を始めさせていただいた.同教授からも,岩田深雪博士,小林速男博士をはじめとする周囲の優秀な先輩・同僚方からも,常に結晶構造を決定するだけでは意味がないと指摘されていた.そのため,直接法の普及により専門家の手を離れつつあった「X線結晶構造解析の将来の開拓」も隠れたテーマであった.波動関数に基づくX線電子密度解析は,式(1)に基づく周期的結晶場中の物性値の算出など,次に続く課題は山積しているが,XMO解析により一応完成した.AOやMO120日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)