ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2

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概要

日本結晶学会誌Vol61No2

X線電子密度解析からすべての物性へ―XAO/XMO解析(a)(b)(c)図10 DFHの差フーリエ図.(Difference density map of DFH.)(a)球対称解析,(b)GAUSSIAN09で計算したMOを固定してCrPを解析,(c)XMO解析.等高線は0.05 eA ?3間隔.実線,一点鎖線,破線は各正零負の等高線を示す.この基底関数では119,657.57である.51個のGTOをそのまま基底関数とすると,N,C,O原子だけで,306(=6×51)個もの基底関数が必要になる.そこで24個のs軌道の最初の20個を10個ずつまとめて2個に短縮し,残りの4個はそのままs型基底関数とする.すなわち,24個の基底関数をまとめて6個の基底関数に再編成する.9個のp型基底関数も同様に,最初の5個をまとめ,残りの4個をそのまま基底関数としたCGTOを採用した.この操作を(10,10,1,1,1,1/5,1,1,1,1)と表現する.H原子の1s軌道にはR. S. Stewartが求めた(2,1,1,1)CGTO 65)を使用した.式(12)の短縮係数c bo,goは定数で,基底関数ごとに表になっている.短縮操作の結果,基底関数の総数は142個となった.DFHは電子を46個もつので,決定すべきMO係数の数は3,266(=23×142)である.DFH結晶は分子間N-H…O水素結合により結晶全体に広がる水素結合のネットワークをもち,分子対称はCiである.しかし,N,C,O原子間はsp 2混成軌道で結合されており,化学的には平面分子であるので,分子対称はC 2hと近似した.さらにN, C, O原子の内殻1s軌道に対応する6個のMOの係数は,結合にほとんど関与しないので定数とした.その結果,解析すべきMO係数は788個になった.ただし,最小二乗計算の各サイクルの計算後,6個のMOも含めてLowdin 43)による再規格直交化を行った.3.3.2 XMO解析の具体的手順XMO解析を1~3の手順で行った.1球対称散乱因子により解析した.次にHONDO-8 66)でMOを計算したところ,6個の内殻MOのほかに各,7,6,2,2個,計23個のag,bu,au,b g軌道が電子に占有された.なお,au,b g軌道は分子面に垂直なp z軌道だけを成分とするπ-軌道である.ag,b u軌道にp z軌道は関与しない.これを出発MOとし,2 MO係数を固定してCrPだけを解析し,最後に,3CrPとMO係数を同時に解析するXMO解析を行った.a min=0.22までは2.3.2で述べた相関回避法を使わなくても最小二乗計算ができた.最小二乗計算で同時に解析される変数は20~30個となるが,a min=0.22から日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)始めて相関を回避しつつ0.0に至った.その結果,標準偏差よりも大きい値をもつ有意MO係数は788個の係数のうち731個,最小二乗計算で最終的な変化量が標準偏差より小さく,収束したとみなせる有意係数は694個であった.最も小さい有意係数は,a21,103=0.0033(28),最も大きい非有意係数はa 11,43=0.024(41)であった.絶対値が0.003以下のMO係数はすべて有意でなかった.1,2,3の解析の最終R-因子は,各,0.026,0.020,0.011であった.結合距離N-HとC-Hは,球対称解析後の各0.914(9),0.992(9)Aから,各1.033(3),1.032(2)Aと長くなった.差フーリエ図を図10a~cに示す.図10aにある結合電子の山は,XMO解析の結果図10cでは消えている.また,図10b,cにはcuspは現れない.したがって,XMO解析は成功したと考えられる.図10bはGAUSSIAN09 67)で求めたMOを固定して,手順2と同様の解析の結果得られた差フーリエ図であるが,酸素原子周辺とN-N,N-C結合上に山が残り,実験とは十分一致してしない.HONDOのMOでも同様である.そこでXMO解析の結果得たMOとGAUSSIAN09で計算したMOの電子密度の差を計算した.それらの一部を,内殻とπ結合以外で最低および最高エネルギー準位をもつ各MO7(ag),MO22(bu)について図11a,bの下側に示す.主としてO原子の2p x,2p y軌道に,計算MOとの差が残っているのがわかる.DFHの分子間水素結合を理論計算で無視したことがその一因であろう.また,上側には2個のMOの電子密度を示す.低エネルギーのMO7は2sσ軌道を,高エネルギーのMO22は,2p x,2p yを主たる成分とするのがわかる.決定すべきMO係数の数に比し,使用したX線回折斑点数は2,997(独立反射数2,423)であり十分多いとはいえないが,各係数が全部の構造因子に平等に寄与しているのではなく,影響を与える構造因子は係数ごとに異なっている.これが,最小二乗計算が機能した原因であろう.断熱近似によると,熱振動する原子群の形成する各119