ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2
- ページ
- 51/88
このページは 日本結晶学会誌Vol61No2 の電子ブックに掲載されている51ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol61No2 の電子ブックに掲載されている51ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol61No2
X線電子密度解析からすべての物性へ―XAO/XMO解析による試料の温度変化が大きいので,430 Kでは,-60°<χ<50°に制限した.また,試料周辺の試料温度の安60定のため設置した馬蹄形の白金線)による雑音と多重反射を避ける4軸角を選んで測定を行い,高温での測定精度の確保に細心の注意を払った.CeB 6の励起状態4f-Γ7と基底状態4f-Γ8軌道のエネルギー差は530~560 Kであるので,61)高温で4f状態がどのように変わるか大変興味深い.そこで室温との中間の430 KでXAO解析を行った.430 Kでは電子は各軌道をどう占有するのであろうか.3.2.1で述べたように,室温では4f-Γ8,Γ7軌道に各0.21(2)×4個,0.042(36)×2個の電子があり,室温より下ではΓ7軌道に電子は存在しない.前項と同様にXAO解析を非調和熱振動解析とともに行ったところ,驚いたことに,Γ8,Γ7軌道を占有する電子は各0.06(2),0.37(11)個であった.球対称解析とXAO解析後の差フーリエ図を各図5a,bに示す.Ce直近の4f電子の山は<110>方向に伸びており,室温以下の結果と異なり,Γ7軌道が優勢である.どうして,2個の4f(j=5/2)軌道の準位が逆転したのであろうか.図5aでは4f電子の山の外側の<100>方向に0.6 eA ?3の大きな山がある.前項で述べた室温では,ここに0.2eA ?3の小さい山があるが,230 K以下では類似の山はない.バンド計算によると,CeB 6のブリュアン帯域のX点を中心とするフェルミ面ではCe-5dとB-2pの混成がみられる,62)また,フェルミ準位付近で4fと5d軌道が混成する63)ことが報告されている.そこで0.6 eA ?3の山は5d電子による可能性がある.図6にCeとBの各軌道のエネルギーの関係を示す.しかし,5dと4f準位間のエネルギー差は4~7×10 4 Kである.CeからB原子を避ける<100>方向に量子化軸x,y,zを定義したので,スピン軌道相互作用を無視したときのe g軌道から派生する5d(j=5/2)軌道のほうがt 2g軌道から派生する5d(j=3/2)軌道よりもエネルギーは低い.そこで5d(j=5/2)Γ7とΓ8軌道(以下,5d-Γ7とΓ8)も含めて4f電子とともにXAO解析を行った.その結果,5d-Γ8軌道は満席となったが,5d-Γ7軌道は空であった.一方,2p z電子数は変化しなかった.図7に4f-Γ8と5d-Γ8軌道の形を図示する.外側の5d-Γ8が満席となり,内側の相似形の4f-Γ8軌道が不安定になったため,4f-Γ7とΓ8軌道の準位の逆転が起こったと考えられる.5d-Γ8軌道が満席となった理由は何であろうか.図6の(a)(b)図5430KにおけるCeB6の図4と同じ面上の差フーリエ図.(Difference density of CeB 6 at 430 K on thesame plane as in Fig.4)図の水平・垂直方向は立方格子の面心方向である.(a)球対称モデル(R=0.0013),(b)XAO解析(R=0.0012).等高線は0.2eA ?3間隔.実線,太線,破線は各正零負の等高線を示す.図7430 KにおけるCeB 6のCe-4f(j=5/2)Γ8(内側),5d(j=5/2)Γ8軌道(外側)の重なOverlapり.(of 4f(j=5/2)Γ8 and 5d(j=5/2)Γ8 orbitals of CeB 6 at 430 K.)4πr 2 R 2 n,l(r)1.200.800.404f5d2p図6430KにおけるCeB6のCeの4f,5d軌道,B-2p軌道の相関図および電子遷移の予想図.(Schematic diagramof the energy levels of Ce-4f, Ce-5d and B-2p orbitals,and the expected electron transfer between the levels.)図80.000.00 2.00ACe-4f,5d軌道とB-2p軌道の動径関数の重なり.(Overlap of the radial distribution functions of Ce-4f,Ce-5d and B-2p orbitals.)Ce-B距離が約3 Aであるので,B-原子核を横軸の3.0 Aにおいて,B-2pを逆方向に描いた.日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)117