ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2

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概要

日本結晶学会誌Vol61No2

田中清明解析には適していることを示している.本研究では精密強度測定はしなかったので,本化合物の熱多色性の原因は究明できなかったが,現在の進んだ方法で測定しXMO解析を行うと成果が期待できる.3.2 4f電子密度解析―精密測定の限界の打破―3.2.1室温以下のCeB 6の4f電子密度解析53)X線電子密度解析できるのはZnまでであろうと言われていたが,本研究で近藤結晶CeB 6に取り組んだ.前節で述べた3d電子密度解析では配位子の結合電子は考慮しなかった.本研究で初めて,B原子の2p軌道も解析に取り込んだ.この意味でここから本格的なXAO解析が始まった.Ce原子は4f電子を1個もつが,単位格子にある88個の電子中の1個,しかもランタニド収縮により原子核に強く引きつけられた4f電子を観測できるのであろうか.そのため考えられる限りの高精度測定を目指し,100 K54で測定した.試料結晶をBond法)で半径36μmのほぼ真球に整形し,ψ-回転により4軸角度の変化による結晶温度の変化を±1Kに抑制するとともに多重反射を避け55る測定)を,100 K,165 K,230 K,298 Kで行った.各4重,2重に縮重した計6個の4f(j=5/2)Γ8(以下,4f-Γ8)と4f(j=5/2)Γ7(以下,4f-Γ7)軌道に1/6個ずつの電子を入れ,3個のB-2p軌道に1/2個ずつの電子を入れ,Ce 3+,B 0.5?とした球対称解析を行った.なお,立方格子の体心にCe原子,各頂点にB 6正八面体の中心があり,B原子は陵上にあるが,4f-Γ8,Γ7軌道は,各々,B原子が存在しない立方格子の面心<100>方向と,B-2p z軌道が存在する<110>方向に伸びる軌道である.Ceを通るz=1/2面上の差フーリエ図を図4a~dに示す.<100>方向に4個の山が見える.室温から165 KまではCe 3+近傍にある4f電子の山は0.6→2.0 eA ?3と大きくなったが,100 Kで0.4 eA ?3と急に小さくなった.一方,別図のB原子近傍の山は0.0→1.2 eA ?3と大きくなった.これらは何によるのであろうか.式(4)に基づき,非調和熱振動とともにXAO解析を行ったところ,別図B-B結合上の山は残ったが,図4の山はほぼ消失した.各AOの電子数を見ると,エネルギーが低い4重縮重の4f-Γ8軌道の電子数は,室温の0.21(2)から100 Kでは0.13(1)と温度とともに低下した.4f-Γ7軌道の電子数は0である.一方,B-2s軌道は常に満席であるが,B6を構成する2px軌道(2pyも等価)の電子数は室温の0.67(4)から100Kの0.27(6)と温度とともに低下する.しかし,B6正八面体を連結するB-B結合を構成するB-2pz軌道の電子数は298Kでの0.19(8)から漸増し,165 Kで0.52(8),100 Kでは1.03(8)に増加する.そのため,B原子に局在する総電子数は増えている.温度低下とともにCe-4f,B-2p x軌道の電子はB-2p z軌道に移動している.165 Kでの4f-電子の山の増大と100 Kでの低下の原因は何であろうか.上記電子数の標準偏差が小さいので,実験精度は十分であったと考えてよい.そこでCeから立方格子の面心に向かう非調和ポテンシャルの変数の温度変化を見ると,165 Kでq 1111=-14(6)×10 ?19JA ?4と正から負に転じ,<100>方向に振動しやすくなる一方,100Kではq1111=47(19)×10?19JA?4,q1122=-131(48)×10 ?19 JA ?4となりCe原子は<110>方向へ振動しやすくなり,<100>方向へは振動しにくい.<110>方向には電子移動により大きな負電荷をもつB-2p z軌道がある.したがって,4f電子の山の変化は,Ce 3+がB-2p軌道の電子配置の温度変化により,165 Kでは<100>方向へ,100 Kでは<110>方向に振動しやすくなることによる.この非調和熱振動の増大はエントロピー増大をもたらす変化であるので,CeからBへの電子移動は止まらない.スピン-軌道相互作用を考慮しない解析ではこのような明快な結果は得られなかった.56)3.2.2室温以上のCeB 6の4f/5d57),58)電子密度解析594軸回折計に小型炉を設置し,吹きつけ法)により加熱した.5個の標準試料を使用して,熱電対の温度較正を行った.Bond法で半径37μmのほぼ真球に結晶を整形し,アルミナを含むアロンセラミックD(東亞合成)で,ホウケイ酸ガラス棒に接着した.4軸回折計のχ軸角(a)(b)(c)(d)図4CeB6のCe(1/2,1/2,1/2)を通る(001)面における球対称解析後の差フーリエ図.(DifferencedensityofCeB6at165Kaftersphericalatomrefinementon(001)passingCeat(1/2,1/2,1/2).)(a)100K(R=0.007,Δrmax=0.6eA?3),(b)165 K(R=0.008,Δρmax=2.0 eA ?3),(c)230 K(R=0.008,Δr max=1.2 eA ?3),(d)298 K(R=0.009,Δρmax=0.6 eA ?3).等高線は図1と同じ.116日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)