ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2

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概要

日本結晶学会誌Vol61No2

X線電子密度解析からすべての物性へ―XAO/XMO解析(a)(b)(c)図1KCoF 3の差フーリエ図.(Difference density map of KCoF 3.)(a)球対称解析,(b)高スピン(t 2g5 e g2),(c)低スピン(t 2g6 e g1)の電子配置による解析.等高線は0.2 eA ?3間隔.実線,一点鎖線,破線は各正零負の等高線を示す.(a)(b)(c)図2KCuF3の(001)面の差フーリエ図.(Differencedensitymapon(001)passingCu(1/2,0,0)andFsat(1/2?x,x,0)(x=0.22768(6))).(a)球対称解析,(b)d x 2とd x 2 ?y 2軌道の混成モデル(本文式(14),(15)),(c)Cu 2+の非調和熱振動を(b)の後で解析.等高線は図1と同じ.よる.ψg = cos (φ/2) d 2 z+ sinφd 2 x ?2 y( /2)(14)ψe = sin (φ/2) d 2 z? cosφd 2 x ?2 y( /2)(15)ψg,ψeに各2個,1個の電子を置きcos(φ/2)を変数として,規格直交件下でXAO解析を行ったところ,cos(φ/2)=0.964(18)となり,図2bに示すように図2aの山と谷は消えた.これはX線回折法でAOを決定した最初の例である.図2bのCu 2+近辺に残る山と谷は,非調和熱振動によることが後に証明された.50)同様にして,d-s混成軌道をもつCuAlO 2の混成軌道が決定された.51)3.1.3対称中心結晶場のCu 2+の3d-軌道の決定52)前2項で述べた例では,結晶場の対称性が高いため,従来のX線解析のプログラムの延長上で処理できたが,熱多色性化合物[Cu(daco)2](NO 3)2(daco:cyclodiazaoctane)のCu 2+はC i結晶場にあるため,d z 2などを基底関数として5個の3d軌道を表現し,25個(=5×5)のAOの係数を,規格直交条件を満たす最小二乗法で決定しなければならない.2.2で述べた波動関数間の規格直交条件を取り込んだ最小二乗法を案出し解析を行った.球対称散乱因子による解析の結果R-因子は0.0333であったが,XAO解析後0.0299に下がった.球対称解析と非調和熱振動解析を含むXAO解析後の,配位する日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)(a)図3[Cu(daco)2](NO 3)2のCuと配位するdaco中の4個のN原子の作るCu-N 4面上の差フーリエ図,(a)球対称解析,(b)XAO解析後に非調和熱振動解析.(Difference density map of[Cu(daco)2](NO 3)2on Cu-N 4 plane after(a)spherical atom refinement,(b)XAO analysis and anharmonic vibrationanalyses.)等高線は図1と同じ.4個のN原子とCu 2+(d 9)が作る平面上の差フーリエ図を図3に示す.図3aではCu 2+の平面内にd x 2 ?y 2軌道とd xy軌道が混合したホ-ル軌道が4個の谷として観測され,図3bではXAO解析によりホール軌道は消えている.平面の上下からNO 3基が配位し,Cu原子の上下にも大きな山があったが大きく減少した.XAO解析の前に非調和熱振動解析を行った場合,差フーリエ図はほとんど影響を受けなかった.これは2.1.3で述べた古典統計に基づく非調和熱振動解析法が,G-C展開よりX線電子密度(b)115