ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2

ページ
48/88

このページは 日本結晶学会誌Vol61No2 の電子ブックに掲載されている48ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol61No2

田中清明体的な式は文献42)の式(15),(28),(29)を参照されたい.なお,構造因子には相異なるjとj’番目の原子に属するGTOの積が発生するので,二中心電子の温度因子も定式化しなければならない.2つのGTOのαbo,goを各α,α’,それらの和をγとし,それらの属する原子の温度因子をTj,Tj’とすると,GTOの積の温度因子は,(Tj)α/γ(Tj’)α’/γである.40)2.3.2変数間相互作用を避ける仕組み42)1.1.1で述べたように,量子力学とともに順調に発展したX線電子密度解析は,最終目的であるMOを求める段階で,最小二乗計算における変数間相関が大きく,正規方程式が解けないため頓挫した.この原因は,1 MO係数間の規格直交条件を処理できる最小二乗法がなかったこと,および,2物理的に類似した多くの項のMO係数を決定する必要があるためである.分子軌道計算では,多中心積分を数学的に可能にするために,1個から10個程度のGTOの一次結合でs,p,dなどの基底関数を表現する.類似の関数を多く使用するため,GTOを使う限りMO係数の相関を解消することはできない.1の問題は2.2で述べた方法で解決しているが,2の問題を解くためにあらゆる方法を試したができなかった.しかし,万策尽きた後に,最小二乗法で相関係数の大きい2変数の片方を固定する方法を試したところ成功した.相関の大きな変数の片方を止めて最小二乗計算を行うことは,X線構造解析においても,原子が特殊な位置にある場合など,各変数の物理的意味が明確で,相関が起こりうると考えられる場合に行われている.しかし,例えば,3.3で述べるジフォルモヒドラジド(DFH)の場合,相関係数が0.6以上の変数の組が約38,000もあり,個々のMO係数も最大142個の変数と相関している.このように複雑に相関している場合,どのMO係数を変数に選ぶかを,最小二乗計算の各段階で自動的に決定する仕組みを作る必要がある.しかも,間違った結果に至らないためには細心の注意が必要である.そこで,構造因子に大きな影響をもつ変数を優先的に,しかし,各係数をできるだけ平等に解析するために以下の方法を考案した.変数として解析する場合をR,しない場合をFとする.(1)従来の結晶学的変数(以下,CrP)をMO係数(以下,係数)とともに解析する.CrPは多くの電子に影響を与えるのでCrPを優先する.(2)係数の絶対値の下限値a minを定めて,それ以上の係数を解析する.下限値は解析の進行とともに小さくし,最終的には0にする.(3)相関する変数が最も多い変数を中心として,これと相関する変数を組1のメンバーとする.次に組1に属さない変数の中から,相関する変数が最も多い変数を選び,それと相関する変数を組2のメンバーとする.これらの中で組1に属する変数があっても構わない.このようにして,すべての変数を組に分ける.(4)組1の中で有効に解析された回数が最も少ない変数から順にRとする.回数が同じときは,CrPを優先的に解析する.CrP間の優先順位は別に定める.係数間では,絶対値の大きい順に行う.Rとして選ばれた変数と相関する変数は,組1内外を問わず,すべてFとする.次に残りのメンバーの中から,ここで述べた基準に従い変数を選びRとする.それに相関する変数はすべてFとする.このようにして,組1内のすべての変数のR/F(RであるかFであるか)を定める.組1での決定は組2以下でも尊重される.なお,有効な解析とは,変数間に相関のない解析ができた場合のことである.観測および計算構造因子の差の絶対値の重み付き和が低下しなくても有効とするが,低下した場合,解析に使用した変数は更43新し,Lowdinの方法)により,全係数を再規格直交化する.(5)組2内に組1にも属する変数があれば,そのR/Fはすでに決定されている.残りの変数の中で,前項で述べた基準でRとする変数を選び,組1の場合と同様に組2の全メンバーのR/Fを定める.組2の決定は組3以下でも尊重される.(6)組3以下,(5)と同様にしてR/Fを定める.結果として,Rとなった変数に相関する変数のすべてがFとなり,Fの変数に相関する変数のうち,少なくとも1つはRになる.3.解析例3.1 3d電子密度解析3.1.1立方対称場中の3d電子密度解析Iwata & Saito 44)により[Co(NH 3)6][Co(CN)6]で3d電子密度が最初に発見され,Iwata 45)によりXAO解析が試みられた.われわれは正八面体場にあるペロブスカイト型化合物KMF 3(M=Mn 46),Fe 47),Co 48),Ni 46))のXAO解析を行った.KCoF 3の(a)球対称散乱因子による解析(球対称解析),(b)Co原子が高スピン状態,および(c)低スピンにあると仮定した非球対称散乱因子による解析,の結果の差フーリエ図を,各図1a~cに示す.図1bが最も残渣密度が小さいので,3d遷移金属が高スピン状態であることがX線回折法で初めて明示された.3.1.2 mmm対称場中のCu 2+のヤーン・テラー効果49)KCuF 3結晶ではF原子は2個の隣接するCu原子の中点からずれるため,最も長いCu-F lからCu-F m,Cu-F sの3種類のCu-F結合距離が出現し正方晶になる.球対称解析後の(001)面の差フーリエ図を図2aに示す.Cu-F s結合上に大きな谷,Cu-F l結合上に山がある.これは次式に示すヤーン・テラー効果によるd z 2とd x 2 ?y 2軌道の混成に114日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)