ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2

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概要

日本結晶学会誌Vol61No2

X線電子密度解析からすべての物性へ―XAO/XMO解析Ψ(κr) =Σcψ(κr)(2)ai , i k ik , k iと表現できる.ここでκiは結晶内でAOが伸(κ<1)縮(κ>1)する効果を表す.35)係数c i,kをXAO解析で決定する.高席対称原子のAOの場合には定数となる.次に基底関数ψk(κir)は水素様関数? nlml(r)=R nl(r)Y lml(θ,?)を使用して,ψk(κir) =Σmdk,m l?nlm l(κir)(3)と表現される.n,l,mlは主量子数,方位量子数,磁気量子数であり,係数d kmlは定数である.なお,(2),(3)の定数は規格化因子を含む.3d-軌道の基底関数ψk(κir)として,一般にd x 2?y2,d z 2,d xy,d yz,d zxが使用される.p軌道の場合には,px,py,p z軌道が基底関数になる.R nl(r)は第一遷移元素まではMann 36)による非相対論的動径関数を使用する.一方,第五周期以降の元素については,プログラムHEX 37)により相対論的動径関数を計算し,また,スピン-軌道相互作用は無視できないので,基底関数ψk(κir)は,1 1ψk(κir) =Σm lΣφκms nlm l(ir) sm (s) l mml s| l jmj,2 2m = j, j?1,? ? j+1, ? j(4)jを使用する.s(ms)とm sは各スピン関数とスピン量子数である.またj=|l-1/2|またはj=l+1/2であり,mj≡m l+m sである.右辺の〈〉は,Condonら38)のTable 1 3に掲載されている.j=1/2からj=7/2までの基底関数は文献34)の表1に掲載されている.なお,スピン関数は直交性のため,X線構造因子の段階では消える.われわれの作製したプログラムQNTAOでは,入力する原子軌道関数の形に応じて,すべての基底関数が自動的に選択される.係数間の関係は自動化されていないが,同文献の表4には,32個の点群すべての結晶場について,式(2)の係数c i,k間の関係がまとめられているので,容易に入力できる.なお,非線形最小二乗法では出発変数の近似39値が必要であるが,上村,田辺,菅野)が示した配位子を点電荷とする簡単なモデルに準拠し作製したプログラムWAVEにより,出発AOを計算する.次に(2)から外殻電子の電子密度を求め,フーリエ変換して構造因子を求める.文献34)の式(38)に構造因子を示す.2.2 AO/MO間の規格直交条件を取り込んだ最小二乗法40)式(2)の係数c i,k(k=1,2,…,2l(または2j)+1)は,ほかのAOと規格直交関係があるので,N個の基底関数で展開されるM個のAOがあるとき,その係数行列(MN行列:M?N)をCとすると,CSC†= I(5)の関係がある.ここでC†はCの転置行列の各元を共役複素数で置換したものであり,Iは単位行列,Sはs k,k'=日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)∫ψk*ψk'dτを元とする(N,N)行列である.ψi,ψj間の規格直交条件にラグランジュの未定乗数λijを与えてXAO解析に取り込むと,最終的に次の正規方程式が得られる.?1 ?1ff( I ? R) A'M Ax = ( I ? R)A'M f(6)(I-R)を除くと,通常のX線構造解析で使用する正規方程式と同じ形である.ここでA,Mfは各,計画行列,分散共分散行列であり,f,xは各,観測および計算構造因子の差,および変数の変化量を成分とするベクトルである.41)?(I-R)をA'M 1 f Aに作用させた結果,規格直交条件によるc i,k間の変数間相互作用は解消され,(I-R)?A'M 1 f Aの逆行列が計算できるようになる.変数の数と測定反射数を各P,Nとし,式(2)のc i,kが関係する項を結晶解析用の変数の後に並べると,修正用の(P,P)行列R=(r ij)の具体的な形は以下のようになる.rij†= { SCC}kl(7)P? MN + ( m? 1) N + 1 ?i,j? P? MN + mN(8)k = i?{ P? MN + ( m?1) N},l = j?{ P? MN + ( m?1 ) N}(9)なお,式(7)~(9)は次節で述べるXMO解析にも適用できる.2.3 XMO解析法(X線分子軌道解析法)42)2.3.1分子軌道モデルの基本式分子軌道Ψmo(r)を対称軌道,Φso(r),で展開する.Ψ() r =ΣaΦ( r)(10)mo so mo,so soXMO解析では係数a mo,soを求める.対称軌道は分子対称により関係づけられる原子の基底関数を組み合わせたものであり,MO係数間の複雑な関係が取り込まれるので,プログラム作製上大変都合がよい.対称軌道は対称関係にある各原子の原子軌道関数,φbo(r-A)を用いて,Φ() r =Σbφ( r ? A )(11)so bo bo,so bo boと表現される.A boはbo番目の基底関数が属する原子の座標である.MO計算では各基底関数は多中心積分を容易にするため,下式(12)のガウス型関数(GTO)で展開する.φ( r ? A ) =Σcχ( r ? A )(12)bo, so bo go bo, go bo,go boχbo,gobo= N ( x ) ( y ) ( z ) exp[ ?α( r ? A ) ]go( r ? A )lAmAnAbo,go2bo(13)ここで,(xA,yA,zA)≡r-A boである.l,m,nは0または正の整数で,s,p,d,f軌道の場合,l+m+nは各々0,1,2,3である.式(12)で和を計算しているが,これは短縮GTO(CGTO)を使用したためである(3.3.1参照).Ψmo(r)*Ψmo(r)をフーリエ変換し構造因子を求める.具113