ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2
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日本結晶学会誌Vol61No2
電子密度分布解析による新奇化学結合状態の解明と化学反応解析への展開図35配位炭素化合物2.(Penta coordinate carboncompound 2.)図21のアントラセン平面上のstatic model map.(Staticmodel map on the anthracene plane of 1.)実線および破線はそれぞれ,正,負の電子密度を示す.たが,結合の性質を定量的に示す必要がある.そこで,計算化学分野でEDDの定量的な解釈に用いられている3AIM(Atoms In Molecules)理論)による解析を行った.AIM解析の結果,B1?O1および,B1?O2間に,bondcritical point(BCP)および,bond path(BP)が見られた.これによって,ホウ素のaxialの2本の結合がEDDの点からも化学結合であることが示された.BCP上の電子密度および,Laplacian値によって結合の性質を調べることができる.2本のaxial結合のBCP上の電子密度(ρ)および,Laplacian(∇2ρ)値は,それぞれ,0.20(3)eA?3,1.26(6)eA ?5(B1?O1),0.18(3)eA ?3,1.20(5)eA ?5(B1?O2)であった.Laplacian値が小さい正の値であるので,結合の供与的な性質が示された.この研究によって,二次元検出器による回折データがEDD解析に十分堪え得るものであることを示すことができた.そして,この組み合わせが,これまで問題となっていた長い測定時間を劇的に短縮し,不安定化合物や大きな分子系のEDD解析による結合状態解析に革新的な発展を実現するものであると確信した.4)3.2 5配位炭素化合物の結合状態5配位ホウ素化合物1の結果を受け,広島大の山本教授から5配位炭素化合物のEDD解析の可否について打診があった.この化合物は中心炭素原子が5本の結合を形成したカルボカチオン種(2)で,ベンゼン環に結合した炭素原子に,2および5位のトリルオキシメチル基(?CH 2OTol)の酸素原子がapical位から弱く結合した三角両錐型構造である(図3).この構造は,有機化学で最も知られた反応中間体である,S N2型求核置換反応中間体である.また,3.1章に述べた5配位ホウ素化合物1の等電子化合物でもある.早速,試料を送っていただき顕微鏡で確認した.ところが,サンプル瓶には,ホウ素化日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)合物1よりも小さい結晶が数個入っているのみであった.通常の構造解析を目的とする測定では十分な大きさであったが,EDD解析には小さすぎるように思われた.最初に小さい結晶を用いて回折強度と安定性の確認を行ったが,長時間の露光を行っても,EDD解析を行うために必要な分解能まで回折斑点を観測することができなかった.さらに,この結晶を室温・空気中で保管すると結晶性が劣化してしまうこともわかった.このことから,この試料のEDD解析を行うためには,短時間で温度変動の少ない低温装置を用いて回折実験を行う必要がある.実験室系で実験できないとなると,ほかのX線源を考える必要がある.その頃,SPring-8 BL04B2ビームラインに大面積IP単結晶回折装置が導入され,高エネルギーX線を用いた構造解析の結果が出始めていた.二次元検出器と高強度X線の組み合わせで,2のEDD解析の問題点が解決されると考えた.試料の安定性を考えるとあまり長い間待つことはできないので,早速実験を行うべく準備を始めた.2001年度前期に実験を行う機会を得た.手持ちの試料は単結晶1個のみであった.事前に実験室で結晶性を確認していたが,成果を出せるか非常に心配していた.これ以前に経験した放射光実験で,実験室では問題ない質の結晶が,放射光では割れや結晶性の悪さが目立ち測定に使えないことを経験していたからである.幸いなことにSPring-8においても良好な回折斑点が得られ,分解能も実験室系の測定とは比較できない程向上し(sinθ/λ)max=1.0 A ?1の回折データを得ることができた.結晶が直方晶系で多くの等価反射を同時に測定できることも幸いし,IPの読み取り時間も含めて数時間で測定を終えることができた.スケーリング後,各IPイメージの尺度因子を確認したところ,測定前後で試料の劣化は見られなかった.通常の構造解析に続き,多極子展開法によるEDD解析を行った.2は結晶学的2回軸上にあり,中心炭素C1および,ベンゼン環のipso,p?位の炭素(C2,C5)を通っている.したがって,結晶学的には1分子の1/2が独立である.中心105