ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2

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概要

日本結晶学会誌Vol61No2

構造生物学から生物構造化学にいたるタンパク質結晶学の展開(a)(b)図5ヒドロゲナーゼ成熟化因子であるHypタンパク質,HypC,HypD,HypEによる三者複合体の結晶構造.(Crystal structure of a ternary complex ofHyp proteins, HypC, HypD and HypE, which arematuration factors for hydrogenase.)43)ヒドロゲナーゼにNi原子を組み込む際に作られる複合体.HypC(マゼンタ),HypD(緑),HypE(青)の複合体が,さらに二量体を作っている.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.図72つの酵素タンパク質の結晶構造.(Crystal structuresof catechol 2,3-dioxygenase,(metapyrocatechase)andundecaprenyl diphosphate synthase.)53),55)(a)二原子酸素添加酵素であるカテコール2,3-ジオキシゲナーゼ(メタピロカテカーゼ)の結晶構造.53)カテコールに分子状酸素を添加して芳香環を開裂させ,α-ヒドロキシムコンセミアルデヒドを生じる反応を触媒する.サブユニット(左)および四量体の構造(右).赤い球は含まれる鉄原子b)プレニル.(鎖伸長酵素(cis型)であるウンデカプレニル二リン酸合成酵素の結晶構造(二量体構造).55)ファルネシル二リン酸(炭素数15)にイソペンテニル二リン酸(炭素数5)を8回cis型に縮合させウンデカプレニル二リン酸(炭素数55)を合成する反応を触媒する.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.図6無脊椎動物(有髭動物)由来の巨大ヘモグロビンの結晶構造.(Crystal structure of giant hemoglobin frominvertebrate.)50)2種のグロビンサブユニット(αとβ)が24量体構造をとっており,分子量はおよそ40万.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.ペルオキシソームのタンパク質輸送因子Pex14p 52)などの結晶構造を決定した.さまざまな酵素タンパク質は結晶学の重要なターゲットであり,結晶構造から得られる詳細な情報はそれらの分子認識や電子伝達の理解に直接的に貢献できる.酵素タンパク質は生体内化学反応の本質を理解する格好の場であり,筆者のグループでもさまざまな結晶構造を決定した53)-77)(図7).の場合に比べて,反応するときにだけ会合する過渡的な複合体は,きわめて弱い分子間相互作用で成り立っていて,結晶構造解析(言い換えればそのような複合体状態で結晶化)には大きな困難がある.しかしながら,結晶構造解析で解明できる複合体構造は,その構造自体が反応の分子機構を理解する直接的な情報を示していて,結晶学のこれからの可能性として意義が大きい.図5はNi原子をヒドロゲナーゼのサブユニットに組み込むHypCDE複合体の結晶構造である.43)物質輸送・貯蔵にかかわるタンパク質では,大腸菌でのリポタンパク質輸送にかかわるLolタンパク質(LolAおよびLolB),48)有髭動物由来の巨大ヘモグロビン(図6),50),51)日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)6.構造生物学から生物構造化学へ前項までに記した結晶構造解析はおおむね1.5~3 A分解能で行われており,このような通常分解能ではタンパク質のポリペプチド鎖の折りたたみ(フォールディング)構造が決まる.このような分解能での解析はPDBに登録されているX線構造のおよそ83%にあたるが,電子雲の塊にポリペプチド鎖の主鎖や側鎖の構造をあてはめることで構造モデルを組み上げている.このような方法でポリペプチド鎖の主鎖のみならず側鎖の位置も活性部位の構造も決定できるが,主鎖や側鎖を構成する個々の原子は電子密度上で分離されているわけではない.にもかかわらず,タンパク質の全体構造と反応に関係する側99