ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2

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概要

日本結晶学会誌Vol61No2

藤間祥子発,公開されている.一見単分散性の試料であっても,ドメイン間または分子間で多様な相互作用を形成する,または,一部がdisorderする場合,実測の散乱曲線と結晶構造由来の散4乱曲線がまったく一致しなくなる.EOM解析)のようなこれを解決するさまざまな手法や解析方法が現在盛んに研究報告されているが,得られた各SAXS構造は生化学などの種々の方法で評価する必要がある.一方で,このような結果が得られた場合には,結晶構造以外の構造の存在を考慮すべきであり,結晶構造のみに依存する間違った構造モデルの提唱のリスクを回避できる利点もある.3.最近の研究から最後に著者らグループの最近の研究の紹介をさせていただく.低分子量Gタンパク質は,分子スイッチとして働き,細胞内で多様な現象に関与する.これら分子の機能破綻はさまざまながんの原因となる.低分子量Gタンパク質は活性型のGTPと不活性型のGDPを行き来し働く.活性化状態への交換はGEFが行う.研究対象としたSmgGDSはRhoAに対するGEFであり,広くC末端にCaaXモチーフをもつGタンパク質にはシャペロンとしても働く.モチーフ上のCys残基は脂質修飾を受ける.SmgGDSはアミノ酸配列からアルマジロリピートモチーフ(ARM)構造のみからなると予測され,これはほかのGEFやプレニル基認識分子とはまったく異なる構造である.また,SmgGDSはスプライスバリアント依存的に脂質修飾の有無を認識するという機能も報告されていた.結晶化は困難を極め研究開始から4年目にしてようやく2つのバリアントのうちの1つ,SmgGDS-558,の構造決定に成功した.単体結晶構造とSAXS構造の比較から,SmgGDSは分子の凹面で低分子量タンパク質と結合すると強く示唆された.変異体を複数作製しGEF活性試験,相互作用解析を行ったところ,やはり凹面はGEF活性に関与していた.同時に,SmgGDS-558は,脂質修飾RhoAにのみ活性を示すという興味深い結果を得た.5)そこで,脂質修飾RhoAを用い結晶化したところ長年の苦労が嘘のように短期間で複合体の結晶構造決定に成功した.非対称単位に4分子の複合体構造が存在したが,SEC-SAXSの結果から1:1の複合体構造であることを確認した(図1B).しかし,複合体結晶は4~6 A程度の分解能しか与えず,さらにRhoAに付加した脂質の占有率が結晶ごとに異なるため,高分解能構造決定には苦労した.プログラムKAMO 6)を用い,120以上の回折データから生成したクラスターすべての電子密度を評価し,(A)(B)Complex Apo図2(A)SmgGDS-558/RhoA全体構造.(CrystalstructureofSmgGDS-558/RhoA.)(B)隠された脂質結合ポケット.(Cryptic lipid-binding pocket.)脂質が高占有率に存在する3.5 Aデータセットの構築に成功した.RhoAの脂質修飾部位は,単体構造からは見出されなかったSmgGDS-558のみに存在する隠されたポケットに挿入されていた(図2).SmgGDSに結合したRhoAは今までにないほど大きくディスオーダーしており,SmgGDSはRhoAのヌクレオチド結合領域の構造を大きく変化させることでGEF活性を発揮することが示された.本研究で提唱した脂質認識機構およびGEF活性機構は両者ともに新規である.7)この発見はSmgGDSや低分子量Gタンパク質を標的とした創薬研究に役立つと考えられる.このように既存の構造生物研究にBio-SAXSを取り入れることで新たな研究の展開をはかることができる.日進月歩で開発が進むBio-SAXSをぜひ取り入れて読者の皆さんの構造研究を推進いただければと思う.謝辞本研究は前所属である東京大学で行った.東京大学清水敏之教授,清水光博士,明治薬科大学紺谷圏二教授,武蔵野大学堅田利明教授,PF構造生物清水伸隆教授,西条慎也博士との共同研究によるものである.X線回折解析実験はPF,SPirng-8を利用し,多くのビームラインスタッフからサポートをいただいた.また,KAMO解析においては東京大学山下恵太郎博士に多大なるサポートをいただいた.この場をお借りしてすべての方々に深く感謝を申し上げます.文献1)C. D. Putnam, et al.: Quarterly Review of Biophysics 40, 3(2007).2)D. Franke, et al.: J. Appl. Cryst. 50, 14(2017).3)K. Yonezawa, et al.: AIP Conf. Proc. 2054, 060082(2019).4)G. Tria, et al.: IUCrJ. 2,11(2015).5)H. Shimizu, et al.: J. Biol. Chem. 292, 32(2017).6)K. Yamashita, et al.: Acta Cryst. D. 74, 9(2018).7)H. Shimizu, et al.: P.N.A.S. 115, 38(2018).80日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)