ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No2
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日本結晶学会誌Vol61No2
日本結晶学会誌61,77-78(2019)最近の研究動向光第2高調波顕微鏡を用いたドメイン境界における物性評価千葉大学大学院理学研究院物理学研究部門横田紘子Hiroko YOKOTA: Observations of Domain Boundary by Using a Second HarmonicGeneration Microscope強的秩序を有する物質群(強誘電体,強磁性体,強弾性体)においては秩序変数の向きが揃った領域(ドメイン)が存在し,隣接するドメインを隔てているのがドメイン境界である.強誘電体や強弾性体のドメイン境界は幅が数格子分と狭いことから,ドメイン境界自身に関する研究はほとんど行われていなかった.近年,透過型電子顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡の空間分解能が著しく向上したことに伴い,ドメイン境界が有する構造や物性に注目が集まっている.例えば,酸化タングステンにおける電気伝導度の著しい増大,1)ビスマスフェライトにおける光起電力効果の発現,2)チタン酸ストロンチウム3,4)における圧電応答の発生,チタン酸カルシウムにおける極性の発現,5)head-to-headやtail-to-tailと呼ばれる荷電ド6メイン境界の存在)などバルクとは異なる特異な物性が発現することが報告されている.また,ドメイン境界自身の構造に関しても第一原理計算や分子動力学計算により,磁性体において見られるようなBloch型,Neel型ドメイン境界が強誘電体においても発現することが予想されている.7,8)このように,ドメイン境界に対する考え方は大きく変わりつつある.欧米では,ドメイン境界を機能性材料とみなしデバイスに応用しようとする“ドメイン境界科学”の動きが高まっている.特に,強弾性体のドメイン境界幅は狭いため,高密度化することが可能であることから高密度記憶媒体として期待されている.ドメイン境界を利用することにより,理論上は既存デバイスを数桁凌駕することが可能だとされている.本稿では,ドメイン境界に関する研究のうち,極性を有する強弾性ドメイン境界について紹介する.強弾性体は中心対称性を有するため,バルクとしては非極性であるが,理論計算から,秩序変数のカップリングを考慮することによりドメイン境界においてのみ極性を有する可能性が示唆されていた.9)実験的には2012年に収差補正透過型電子顕微鏡により,チタン酸カルシウム(CaTiO 3)のドメイン境界近傍においてチタンイオンがドメイン境界に平行な方向に変位している様子が観察された.5)イオンの平衡位置からの変位は分極の発現に対応していることから,強弾性ドメイン境界における極性の存在を結日本結晶学会誌第61巻第2号(2019)論付けている.また,共鳴型圧電分光法(RPS)により微弱な圧電信号も確認されている.これらの実験結果は非常に興味深いものであるが,一方で極性の有無を結論付けるにはいくつかの問題点がある.例えば,透過型電子顕微鏡観察においては非常に薄い試料を準備することが必要不可欠であるが,その準備過程において歪などの影響を受ける可能性がある.RPS法は巨視的な測定であるため,圧電応答がドメイン境界からの寄与だと断言することが難しいなどが挙げられる.より本質的な問題点としては,圧電性の発現が極性の有無に直結していないことが挙げられる.結晶は32の点群に識別されるが,そのうち21の点群が中心対称性をもたない.このうち,点群432を除く20の点群は圧電性を有するが,極性を示すのはわずか10の点群に限られる.このことから,極性の有無を議論するためには,点群の決定が必要不可欠であると言える.われわれはこれらの問題点を解決するため,非線形光学効果の1つである光第2高調波(SHG)を用いて強弾性ドメイン境界における極性の有無の評価を行った.SHGとはレーザーのように位相の揃った強い強度の光を物質に入射した場合に,物質内の電子が非調和ポテンシャルを感じ,それにより入射光の振動数の2倍,すなわち波長が半分の光が発生する現象のことである.SHGは空間反転対称性の破れ,および時間反転対称性の破れにより生じ,3階テンソルによって記述されることから対称性と直結する物理量である.入射光の偏光方向と試料から発生したSH波との偏光方向を選択し偏光依存性測定を行うことにより,点群を決定することが可能となる.以下に,SHG顕微システムを用いて行った強弾性体ドメイン境界の物性評価について述べる.われわれはこれまでに強弾性体であるCaTiO 3,ランタンアルミネート(LaAlO 3),リン酸鉛(Pb 3(PO 4)2)に関して共焦点SHG顕微システムを用いてドメイン境界観察を行ってきた.10-12)図1にCaTiO 3およびLaAlO 3のSHG二次元画像を示す.偏光顕微鏡画像と比較することにより,SH活性な領域がドメイン境界に対応していることがわかった.強弾性体のドメイン境界には結晶学的に自明なW-wallと非自明なW'-wallの2種類が存在するが,77