ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
軟X線発光分光の基礎とその応用これを,高エネルギー分解能で分光することで価電子(結合電子)のエネルギー状態の情報を直接的に得ることができる.SXESはTEMでも可能である5)が,EELSにくらべ原理的に信号強度が何桁も小さい.そこで,汎用技術としては,TEMよりも照射電流量と分析体積が大きい電子線マイクロアナライザ(Electron probe microanalyzer:EPMA)や走査型電子顕微鏡(Scanning electronmicroscope:SEM)用の分析装置となっている.なお,特性X線を用いた元素分析には,主に高エネルギーのX線を用いている.これは内殻準位間の電子遷移(過程e)に起因しており,価電子のエネルギー分布の情報は含まれていない.以下では,SXESスペクトル測定の概略と,スペクトル中に結合電子の情報がどのように表れるのかを,Si,金属間化合物,機能性アモルファスカーボン材料およびボロン材料の例とともに紹介する.2.SXES測定装置の概略図2に,EPMAもしくはSEMにSXES分光器を装着して価電子状態を測定する場合の模式図を示す.電子ビームを試料に照射すると,その領域から特性X線が放出される.今,図1の電子遷移dによりエネルギーhv 2のX線が放出される場合を考える.内殻準位のエネルギー幅は無視できるほど小さい一方,価電子帯は数eV~10eVの幅をもっている(いろいろな結合状態エネルギーが存在する).したがって,遷移する前の電子のエネルギー状態が異なると放出X線のエネルギーも異なる.このエネルギーのばらつき幅が,価電子帯の幅に対応する.このエネルギーの異なるX線を回折格子で分散させ(エネルギー(波長)が異なると回折角度が異なる),その強度分布を検出器で捉える.この強度分布をモニター(図2)で見ると,図1の価電子帯の形状に対応したスペクトル(価電子帯上端が高エネルギー側)となる.すなわち,電子線を照射した領域に含まれる原子-原子の結合電子エネルギー分布をスペクトル強度分布として得ることができる.実際には高いエネルギーの特性X線も回折格子に入射するが,回折格子は特定のエネルギー範囲でのみスペクトル形成するように設計されている.回折格子の溝間隔は,0.5~1μm程度を用いている.汎用SXES装置の検出器には,軟X線に感度のあるCCDチップを搭載したカメラが採用されている.より安価なマイクロチャンネルプレート(MCP)検出器でも測定できるが,一般的にCCDより画素が大きい(分解能が悪くなる)ことと,高電圧を印可するため真空度などの管理など,実験上の注意が必要であることから汎用装置には採用されていない.われわれの作製してきたTEM/SEM用の分光器では,試料上の電子ビーム位置から検出器までの距離は約50 cmである.測定エネルギー領域は極端紫外線から軟X線にわたる50 eVから数keVに限られるが,EDSより2桁程度高いエネルギー分解能を有するため,価電子の情報を引き出すことができる.汎用機においては,2 keV程度まで測定可能な装置が最近上梓された.AlのL発光(約70 eV)に観察されるフェルミ端において,われわれのオリジナル分光器で0.08 eV,6)汎用機で0.2 eV程度のエネルギー分解能が実現している.SXESは,測定するX線の平均自由行程が数十nm程度以上であるため,バルク敏感(表面状態に鈍感)な測定であり,電子顕微鏡の通常の真空度で実験可能である点や,X線放出が物質内での電子遷移に起因するため,X線エネルギー測定における試料帯電の影響はなく絶縁体でも測定が可能であるなどの特徴を有する.図2EPMA/SEM-SXES装置の概略図.(Schematic figureof a EPMA/SEM-SXES instrument. Soft X-raysemitted from an e- beam irradiated area are dispersedby a grating and those intensity distribution is detectedby an area detector.)3.SXESスペクトルと計算結果の比較図3aに,Siウエハから測定したL発光(価電子→L 2,3殻)スペクトルを示す.7)スペクトルピークに書いてあるL2’,L1は,バンド計算との対応を示す電子状態の波数ベクトルを示す.スペクトル強度分布の右端の矢印は,価電子帯上端に対応する.図3bには,第一原理計算(WIEN2k)で得たSi-Siの結合電子のエネルギー状態分布(Density of states:DOS)を成分ごとに分解して表示した.s,p,dは,それぞれ3s,3p,3d電子軌道成分の分布を示し,横軸は価電子帯の上端(矢印)を基準とした電子のエネルギーである.軟X線発光は電子遷移に伴う光放出過程であり,双極子遷移則(電子軌道の方位量子数lの変化が±1)に従う.よって,図3aのL発光は価電子帯からL 2,3殻(2p準位;l=1)への電子遷移に伴うものであり,その強度分布は価電子帯のs(l=0),d(l=2)日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)3