ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
日本結晶学会誌61,2-6(2019)特集電子線で何が観測できるか軟X線発光分光の基礎とその応用東北大学多元物質科学研究所寺内正己Masami TERAUCHI: Basics and Application of Soft X-ray Emission SpectroscopyBased on Electron MicroscopyWe have been developing soft X-ray emission spectroscopy instrument for electron microscope,and it has been commercialized recently as a now tool to investigate chemical bonding state froman area observed in electron microscope. Here, the fundamental features of soft X-ray emissionspectroscopy and a few results are presented.1.はじめに透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope;TEM)を用いると,物質の一部を拡大して領域を特定し,その領域の結晶学的情報や組成情報を得ることができる.そのため,電子顕微鏡を用いた分析技術は,材料開発現場に広く普及している.とりわけ,新機能材料開発においては,物質特性に関連する元素の化学結合状態がどのようになっているのかという情報はきわめて重要であり,電子顕微鏡観察下で分光技術を用いた状態分析が多用されるようになった.図1に,物質(半導体)の電子状態の模式図と,電子顕微鏡での分光実験にかかわる電子遷移を示す.バンドギャップ近傍の電子状態分析に用いられているカソードルミネッセンス(Cathodeluminescence;CL)にかかわる電子緩和過程はa,透過型電子顕微鏡で広く用いられている電子エネルギー損失分光法(Electron energy-loss spectroscopy;EELS)にかかわる電子励起過程はb(価電子励起)とc(内殻電子励起)である.元素分析に用いられるX線発光分光(X-ray emission spectroscopy;XES)にかかわる電子緩和過程はdとeである.近年,これらの技術に加え,1 keV程度以下の低エネルギー特性X線(緩和過程d)を高いエネルギー分解能で分光することにより化学結合状態の情報が得られる軟X線発光分光(Soft X-ray emissionspectroscopy:SXES)が汎用技術として仲間入りした.1),2)物質機能に直結する電子状態分析手法としては,TEM-EELSが広く普及している.近年のモノクロメータ搭載電子顕微鏡開発の結果,1 nmφ程度の電子プローブで0.1 eV程度のエネルギー分解能が実現されており,実用材料ナノ粒子の1つ1つから近赤外領域の物性情報が得られる3)だけでなく,格子振動の情報も得られるようになってきた.4)また,伝導帯の状態密度の情報を与える内殻電子励起(過程c)スペクトルと汎用第一原理計図1電子状態の模式図とCL(過程a),EELS(過程bおよびc)およびX線発光(過程dおよびe)にかかわる電子遷移.過程d(価電子帯→内殻準位)に伴って発生するX線を高エネルギー分解能で分光すると,価電子(結合電子)のエネルギー状態の情報が得られる.(Schematic electronic structure diagram ofmaterials and related electronic transition for CL(a),EELS(b&c)and XES(d&e)measurements. X-raysdue to transition e include information of energy stateof bonding electrons.)算ソフトの計算結果との比較から,局所的な電子状態と局所構造との関連を明らかにする研究が広まってきている.このようにEELSでは多くの分光学的情報が得られるが,価電子(結合電子)のエネルギー状態を直接的に測定することはできない.これを可能とするのが近年汎用化されたSXESである.この手法で測定する低エネルギー特性X線は,価電子が束縛エネルギーの小さな内殻電子準位へと遷移する際に放出される(過程d).2日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)