ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

クリスタリット64量子ホール効果Quantum Hall Effectホール効果は,電流に対して垂直に磁場を印加した際に,電流と磁場の両方に直行する方向に電場(ホール電場)が生じる現象である.この場合,ホール抵抗は磁場に対して連続的に変化する.一方量子ホール効果では,磁場の増大に伴ってホール抵抗が変化しない領域(量子ホールプラトー)が出現する.これは,不純物の少ない二次元電子系において,低温で強い磁場を印加すると電子のエネルギー準位が離散化してランダウ準位が形成されるためである.この量子ホール効果は1980年にKlaus von Klitzingによって発見された.量子ホールプラトーにおけるホール抵抗の値は,整数量子ホール状態ではフォン・クリッツィング定数R K=h/e 2の整数倍に非常に精密に量子化される.したがって,計量学における電気抵抗標準として用いられる.グラフェンでは,室温でも量子ホール効果が観測された.(名古屋大学大学院工学研究科乗松航)デフォーカスDefocusフォーカス(焦点)を外した状態をデフォーカスと呼び,透過型電子顕微鏡法においては,試料を通過した電子の位相ずれをコントラストするためにデフォーカスした状態で写真を撮影する.通常,電子顕微鏡や顕微鏡などでレンズを使って結像し,拡大像を作る場合,レンズの焦点距離f,試料とレンズの距離a(f<a<2f)としたとき,1/f=1/a+1/bに従い,レンズからの距離b(実像面)に実像を作製する.この実像面にできる像は,いわゆる,焦点(フォーカス)の合った像である.試料から散乱する電子線や光の量が異なる場合には,その量に比例するコントラストを生じ,像が形成されるが,試料が電子線や光に対して透明で,ほぼすべての電子が透過する場合,この像はそれぞれの点にコントラストを生まない.透明であっても,電子線や光と試料が相互作用した場合には,その静電ポテンシャルや密度の違いにより,隣り合った試料位置で位相差が生じる.この位相差は,フォーカスを外して(デフォーカスして)隣り合った試料位置から散乱した電子線や光を干渉させることにより,コントラストを生み出すことができる.(九州工業大学大学院情報工学研究院生命情報工学研究系安永卓生)中央断面定理Central Slice Theorem投影断面定理とも呼ばれ,三次元物体の投影像(二次元)をフーリエ変換した逆空間(2Dフーリエ空間)の情報(複素数)は,元の物体の三次元フーリエ変換された逆空間(3Dフーリエ空間)において,原点(中央)を通る一断面(2D)の情報と同じであることを示す.この定理は,X線CT(Computed tomography)や電子顕微鏡における三次元再構成法が可能であることの数学的保証である.さまざまな方向からの投影像が得られることは,3Dフーリエ空間のさまざまな断面の情報が得られることに対応し,多くの角度からの投影像が得られれば,三次元フーリエ空間の情報のすべてを獲得できる.獲得された三次元フーリエ空間の情報を逆フーリエ変換(フーリエ合成)により,三次元物体の密度を再構成できる.投影像を取り扱うラドン変換とも関係しており,高次元空間(N次元)でも投影像(N-一次元)として定義して,同様の扱いをすることが可能である.さらに,二次元の投影像をある軸に対して投影した一次元投影像(シノグラム)が三次元フーリエ空間において,原点を通る軸となることも同様に対応する.(九州工業大学大学院情報工学研究院生命情報工学研究系安永卓生)非極性面・半極性面Non-Polar and Semi-Polar Planes極性面ではない面を非極性面と呼び,極性がない無極性面と極性面の間にある面を半極性面と呼ぶ.化合物結晶の場合,構成元素と結晶構造によっては,反転対称性がなく電荷的に中性にならない格子面があり,このような面が極性面となる.六方晶のGaNの場合,c面(0001)が極性面であり,c面と垂直なa面(112 ? 0)やm面(101 ? 0)が無極性面,その間のr面(11 ? 02)などが半極性面である.極性面のc面を成長面として使ったAlGaN/GaN/InGaN系LEDでは,ヘテロ構造による歪みから生じるピエゾ電界と自発分極によって発光効率が低下するという問題がある.これを克服するため,非極性面を用いたデバイス開発が進められている.((公財)高輝度光科学研究センター今井康彦)ミスフィット転位Misfit Dislocation格子定数の異なる結晶同士の界面に導入される転位のこと.不整合転位とも呼ばれる.結晶基板上に基板とは異なる結晶薄膜をヘテロエピタキシャル成長させる場合,膜厚がある臨界膜厚を超えると,薄膜中の歪みが緩和するようにミスフィット転位が入る.ミスフィット転位が入ったほうがエネルギー的に安定になるためである.臨界膜厚は,格子定数の違い(格子不整合度)と一定の関係があり,格子不整合度が大きければ,臨界膜厚は薄くなる.((公財)高輝度光科学研究センター今井康彦)日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)