ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
談話室今後RMCのニーズは広がっていくと感じました.初日のkeynote lectureでは,京都大学の北川宏教授がMOF(Metal Organic Frameworks)に関する講演をされました.この講演において興味を惹いたのは,材料の特性と構造の次元を関係付ける点です.例えば,2-leg ladder型MOFに組み込まれた金属(Pt)原子上の酸化数が規則正しく配列されている場合,三角3-legもしくは四角4-legladderにすると,金属原子上の酸化数の規則性がどのように変化するかに注目されていました.構造を特徴付けるための変数として次元数に注目することで,特性(あるいは酸化数)との相関の見通しを良くすることができる点は,ほかの材料の特性と構造の紐付けに応用できると考えられます.ポスターセッション初日および2日目の夕刻に2時間程度の時間でポスターセッションが行われました.ここでは多くの研究者がMOFや生体分子構造と機能の解明について紹介していました.筆者はこれらの研究に関する知識が浅く,十分に理解できたとは言えませんでしたが,物理領域の講演については深く議論することができました.例えば,2018年度日本結晶学会年会でポスター講演賞を受賞された佐々木友彰氏(筑波大学)が紹介していた,粉末X線回折より電子分布を実験的に決定する研究には,大変興味を惹かれました.密度汎関数理論に基づく電子状態計算は,近年の計算機とソフトウェアの発展により,いわゆる材料屋と呼ばれる研究者にとって1つの実験器具とみなされるほど普及していますが,一方でバンドギャップに代表される計算値と測定値の食い違いは今もなお残っています.氏の研究成果は,単に金属中の電子分布描写という基礎物性の解明に留まらず,電子状態計算の改良・発展に資すると期待できると思いました.筆者の講演は初日で,ナノ粒子の原子構造モデリング手法についての紹介をいたしました.議論を通じ,別手法の解析結果と矛盾しないというご意見をいただくことができ,筆者独自の視点の研究手法に対して自信をもつことができました.一方,実施しているX線全散乱測定および解析については,まだ十分に市民権が得られていない印象を受けたので,今後研究を進め,有用なプローブであることを示していかなければと感じました.おわりにAsCA2018にて多くの最新の研究成果に直接に接し,他分野の出身である筆者は良い刺激を受けました.恥ずかしながら『結晶学』に関して,すでに多くの方々に研究され尽くしている分野であるという先入観がありましたが,実際にはcryo-EMや放射光施設などを利用した新しい測定手法によって,まだまだ発展し続けていることを目の当たりにしたため,その先入観は打ち砕かれました.と同時に,現状維持で満足していたらすぐに時代に取り残されてしまう,という危機感も憶えました.一研究者として常に次世代の研究を見据え,新しい材料・解析手法を探るためのアンテナを張り巡らせることが必要と強く感じ,それに際して自身の研究者としての在り方を見つめ直すいい機会となりました.最後になりましたが,AsCA2018参加をご支援いただきました日本結晶学会およびリガクファンドに深く感謝申し上げます.62日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)