ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

談話室の食事や街中の観光を楽しみました.AsCA2018は自身にとって,インドのハイデラバードで開催されたIUCr2017,カナダのハリファックスで開催されたSagamore2018に続く3回目の国際会議参加でした.直行便を利用しての渡航は初めてで,移動が楽であろうと予想し,事前の発表練習もほどほどに飛行機に搭乗しました.予想は外れ,大きく揺れかつ深夜便でライトの付いていない機内ではほとんど練習ができず,結果として滞在期間中に毎晩深夜2時過ぎまで練習することとなりました.期待せず事前によく練習をしておくべきだったと反省いたしました.AsCA and SCANZプログラムは4つのPlenary,6つのKeynote,18のMicro symposium,2つのWorkshop,ほかにGeneral interest symposiumとRising star symposiumから構成されていました.Micro symposiumは最大3会場での平行開催でした.ポスターセッションは初日と2日目の夜に2カ所で開催されました.講演,ポスターを含めて生物分野の発表が最も多い印象でした.次いでMetalorganic frameworks(MOF)に関する発表が多く,それらの発表では質疑応答も活発でした.自身の研究分野である電子密度研究の発表は非常に少なく残念でした.これまで参加した国際会議と比較して座長,スタッフ,参加者を含めて女性が多いと感じました.初日のOpening ceremonyに続いて行われたGeneral interestsymposiumにおいて,ライス大学George Phillips教授はThe future of crystallography -or notというタイトルで講演を行われました.今後発展していく分野として2色ポンププローブ法を使用した時分割測定,small molecule,時分割タンパク質結晶学,X線自由電子レーザー(XFEL)といったキーワードが並びました.3日目のKeynoteのスウェーデンのグーテンベルグ大学Richard Neutze教授によるTime-resolved diffractionexperiments at X-ray free electron lasers reveal ultrafaststructural changes in photosynthesisは,会場が一杯になるほど注目を集めていました.照射損傷の前に回折データを取得するという手法の概念の説明から,2011年にChapmanらにより報告されたLCLSでの光合成タンパクの時分割回折実験と,ピコ秒の時間スケールでの構造変化について丁寧に説明されていました.現在進行中のSACLAでの実験についての紹介もあり,非常に貴重な経験でした.最終日の4日目には,SCANZ Bragg Lectureが行われました.シドニー大学のMitcell Guss教授は,My life incrystallographyと題して幼少期,学生時代,そして54年間の研究生活を振り返り,キャリアを確立する上で印象的だったでき事などを説明されました.1953年のStructure biologyの会議の写真には,私も知っているノーベル賞受賞者がたくさん写っており,胸が躍りました.1960年代の研究例としては手描きの電子密度分布,最小二乗法で誤った重みを使用することについての論文が紹介されました.今日の結晶学は多くの偉大な研究者の試行錯誤の積み重ねにより成り,巨人の肩の上に立つとはまさにこのことだと感じました.ダイヤモンドの電子密度に関する研究成果を,最終日の午後に開催されたRising star symposiumにて発表いたしました.今回Rising Star Awardを受賞したのは6名で,3名がタンパク質,3名が化学,物理分野でした.発表で割り当てられた時間は質疑応答を含み20分でした.写真6は発表中の写真です.会場は400名程度収容可能なホールで,手前の大きなスクリーンにスライドが2枚表示されていました.最初に発表されたインドのInstituteof Stem Cell Biology and Regenerative Medicineのポスドク研究員Dr. Sanchari Banerjeeは,ゴキブリ中でin vivoで成長させた天然の不均一タンパク質の結晶構造を,XFELを利用して決定し報告されました.成果はすでに各地で報道されており,大変インパクトが大きく,質問応答も活発でした.オーストラリアのシドニー大学のMs. Katrina ZenereはSCANZ Mathieson medalを受賞したDr. Suzanne Naville,Plenaryを行ったCameron Kepert教授の研究グループのポスドク研究員で,MOFのSpincrossoverについて発表していました.ほかの受賞者も数年前から研究成果を出しており,修士2年の私からみれば十分ベテランでした.私以外の発表者は発表前にはリラックスして,特に準備をすることなく落ち着いていました.緊張して原稿にかじりついている自身にも気さくに「おめでとう!」と声をかけてくださり,器の大きさの違いを感じました.素晴らしい受賞者とともに一緒に発表できることを嬉しく感じました.AsCA2018は私にとって学生生活最後の国際会議であり,集大成を発表する場となりました.会議に参加して写真6発表中の写真AsCA2018のFacebookページより入手58日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)