ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

放射光ナノビームX線回折による結晶評価の現状ビームサイズが1μmより小さくなると,試料上で測定したい位置とX線の位置を合わせることが難しくなる.この作業を容易にするために,オフラインに,オンラインと同じ平行移動ステージと長焦点顕微鏡が整備してある.このオフラインステージを使うと,試料上の測定したい位置に対応する平行移動ステージの座標をあらかじめ調べておくことができる.この座標を使うことで,試料上の測定したい位置を,数μmの精度で容易にビーム位置に合わせることができる.より高い精度で試料上の位置を特定して測定するには,工夫が必要である.試料の構造がわかっている場合には,比較的広い範囲で回折強度の実空間マップを測り,そのデータと構造とを突き合わせ,最終的に測る領域を決める方法がある.一方,試料の構造に特徴がない場合などには,あらかじめ白金などのマーカーを試料に付けておき,これからの蛍光X線を検出することでマーカーの位置を求め,マーカーからの相対的な座標を使って,X線回折を測定する位置を決める方法がとられる.20~30 keVまでの高エネルギーX線用には,石英を用いた屈折レンズが用意されている.30 keVでの集光ビームサイズは1.3×1.1μm 2で,フラックス1.4×10 9 ph/sが実現できている.9,10)3.3どのような試料に対応しているのか試料は基本的な結晶構造と方位がわかっている必要がある.基板のサイズは10×10 mm 2程度以下,厚さは数mm程度以下で,薄膜試料の厚さは10 nm程度以上あることが望ましい.基板のサイズは,試料周りのワーキングスペースで制限されている.試料の厚さの下限は,Laue関数がピークをもつ程度の厚さが必要という意味である.逆に膜が厚すぎると,X線の侵入長がビームサイズと比べて長いことから空間分解能が悪化し,ナノビームX線を使うメリットが薄くなる.また,試料表面は平らであることが望ましい.表面の凹凸やラフネスが100 nm程度以上あると,試料表面をゴニオメーターの回転中心に合わせるための試料によるビームの半割りの作業が困難になるためである.4.研究例4.1 m面InGaN/GaNヘテロ構造におけるミスフィッ11,12)ト転位による格子傾斜解析InGaN/GaN系発光デバイスの研究開発は近年急速に進展し,青色LEDや青紫色レーザなどの実用化やさらなる応用が期待されている.最近では,従来のc面ではなく非極性(m面やa面)や半極性面のInGaN結晶を活性層に用いることでピエゾ電界を抑制し,さらなる発光効率の向上や緑色レーザ開発などが期待されている.ここでは,非極性面m面GaN上に成長した臨界膜厚よりも厚いInGaN層に対し,ミスフィット転位により生じる格子傾斜の局所的な変化について調べた結果を紹介する.試料には,非極性m面自立GaN基板上にMOCVD法によって成長された200 nm厚InGaN層を用いた.In組成は10%とした.局所的な逆格子マッピング測定は,ビームサイズを320(水平)×450(垂直)nm 2に集光したX線を用いた.試料ステージを500 nmずつ精密に繰り返し移動し,それぞれの位置においてX線回折の測定を行った.m面においてX線をa軸[112 ? 0]方向へ入射させ,任意位置における対称面(22 ? 00)の逆格子空間マップを示す(図5).横軸をa軸[112 ? 0]方向,縦軸をm軸[11 ? 00]方向とし,それぞれq x,qyで表す.図5より,GaN基板のピーク位置に比べInGaN結晶のピーク位置がq x方向にオフセットしており,InGaN結晶が基板面方位から傾斜していることを確認した.さらに,図5に示したInGaNの回折ピーク位置にωを固定して,X線ビームの照射位置を,ほぼビーム径に等しい500 nmピッチで入射方向[112 ? 0]へ試料ステージを微動した際の回折強度を図6図4各種サンプルホルダー(左上)とゴニオメーターヘッド.(Sample holders(inset)and goniometer heads.)図5測定された22 ? 00近傍の逆格子空間マップ. 12)(Reciprocal space map of GaN and InGaN 22 ? 00.)日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)53