ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

今井康彦,隅谷和嗣,木村滋単結晶薄膜歪みの導入(横方向に格子整合)エピタキシャル成長歪みの緩和X-raysZPOSAsampledetector基板逆格子点Q zQ zシフトQ z構造を反映MicroscopeQ xQ xQ x図2基板上の単結晶薄膜の逆格子マップの模式図.(Schematics of epitaxially grown film on a substrateand its reciprocal space maps.)実空間・逆空間とも黄色と青がそれぞれ膜,基板を表す.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.非対称反射だけでは格子面の傾きと歪みの成分を分離できないため,通常は対称反射と非対称反射はセットで測定される.対称反射から格子面の傾きと表面法線方向の歪みを求め,非対称反射から面内の歪みを求める,というように使われる.シリコンなどの完全に近い結晶を除くと,実在の単結晶はさまざまな要因による不完全性を有しており,逆格子点は実空間の結晶格子の構造を反映した形となる.図2に基板とその上にエピタキシャル成長させた単結晶薄膜の対称反射の逆格子マップの模式図を示す.薄膜は単体では基板よりも大きな格子定数をもっているものとする.薄膜が横方向に格子整合しているとすると,縦方向に伸びるため,逆格子点は原点方向にシフトして観測される.このシフト割合が歪みである.さらに,欠陥の導入などにより歪みが緩和すると,逆格子スポットはその構造を反映した形になる.このように逆格子スポットの形状を精密に測定することで試料の構造を調べることができる.3.放射光ナノビームX線回折3.1世界の放射光施設における状況放射光ナノビームX線回折は,第3世代の大型放射光施設(フランスのEuropean Synchrotron Radiation Facility(ESRF),アメリカのAdvanced Photon Source(APS),日本のSPring-8)において技術開発と利用研究が行われてきた.また,比較的新しいドイツのPETRA IIIでも利用研究が始まっている.これら4つの施設におけるナノビームX線回折システムでは,利用できるX線のエネルギー範囲や実用ビームサイズは同程度である.一方,回折計の回転自由度やステージ類,検出器,利用できる試料環境などには違いがあり,それぞれに特徴がある.ESRFのID01では,最大300 frame/sという高速ピクセル検出器とピエゾ駆動ステージを組み合わせた高速マッピングや,図3ナノビームX線回折装置の写真.(A photo of thenanobeam X-ray diffraction system.)低温から高温(2.5 K~1,000℃)にまで対応した試料環境という特徴がある.3)APSの2-ID-Dは,ナノビームX線回折のパイオニア的ビームラインで,大型の多軸回折計を用いている.4)PETRA IIIのP06では,X線の空間的コヒーレンスを利用したBragg X-ray Ptychographyを実試料に適用した成果などが報告され始めている.5)SPring-8のBL13XUでは,瞬間最大風速ではなく安定した利用のため,全周で0.5μm以下という高い偏芯精度をもつゴニオメーターをナノビームX線回折実験専用に用いるとともに,実験ハッチ内を精密温調することでナノビームX線利用において最も大きな課題となるビーム位置のドリフトを低減している,という特徴がある.6)また,近年運転を開始した中規模の高輝度放射光施設(NSLS-II,TPS,MAX-IVなど)でも,ナノビームX線を利用するビームラインが整備され,走査型のイメージング実験などが始まっている.3.2 SPring-8 BL13XUのシステム6-8)SPring-8 BL13XUのナノビームX線回折装置は実験ハッチ4に設置されている.装置の主要部分の写真を図3に示す.X線の集光にはゾーンプレート(ZP)を用い,Order sorting aperture(OSA)を通して試料に入射する.試料は長焦点顕微鏡で観察することができる.回折測定用の検出器にはピクセルサイズ55μmのピクセル検出器を用いている.8 keVにおける最小ビームサイズは110×160 nm 2であるが,通常は200~300 nm程度のビームサイズで実験を行っている.このときのフラックスは10 9 ph/s程度である.最小サイズまで絞ると,フラックスは1桁以上落ちるため,実試料の測定は強度的に難しくなる.試料は,アルミ製のサンプルホルダー(図4参照)に蜜蝋や弱粘性の両面テープで固定し,HUBER製のゴニオメーターヘッドに取り付ける.ゴニオメーターヘッドは,キネマティックマウント回折計にマウントする.このマウントは,脱着による位置再現性を高めるため,標準のIUCrマウントから取り替えてある.52日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)