ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

日本結晶学会誌61,51-55(2019)世界の放射光施設を使ってみよう(2)放射光ナノビームX線回折による結晶評価の現状(公財)高輝度光科学研究センター今井康彦,隅谷和嗣,木村滋Yasuhiko IMAI, Kazushi SUMITANI and Shigeru KIMURA:Current Status of Material Characterization by SynchrotronRadiation Nanobeam X-ray DiffractionSynchrotron radiation X-rays can be focused to 100 nm order in beamsize taking advantage of its high brilliance and development of X-rayoptical devices. We have been performing crystal quality assessment inhigh-spatial-resolution by X-ray diffraction using the focused X-rays. Ourmain?target?samples?are?single?crystalline?thin?films?grown?on?substrates,?nano structure like super-lattice or semiconductor devices. We report thesynchrotron nanobeam X-ray diffraction system at SPring-8 and typicalrecent results.1.はじめにX線回折法というと,単結晶試料からの多くのBragg反射の強度を測定して結晶構造を求める手法や,粉末結晶からのDebye-Scherrerリングを測定することによる相の同定・Rietveld法による結晶構造を求める方法などが一般に知られている.また一方,X線回折を結晶性の評価に用いる場合,ロッキングカーブを測定する方法が簡単で最も広く使われている.ロッキングカーブの半値幅が狭ければ結晶性が良く,広ければ悪いという具合に,結晶性の指標の1つとなっている.また,化合物半導体エピタキシャル薄膜などの結晶性の評価には,Bragg反射のプロファイルを精密に測定する高分解能X1線回折法)が用いられている.ここでいう高分解能とは,実空間の空間的な分解能ではなく,逆空間における分解能(実空間の角度分解能)であることに注意していただきたい.この高分解能X線回折法では,いわゆる逆格子マップの測定を行うことで,基板と薄膜の格子のミスマッチ,方位のズレ,転位密度,モザイク広がり,反り,歪みの緩和などを定量的に評価することができる.さらに,X線に対して試料を走査しながら,各点で逆格子マップを測定すると,試料面内の結晶性の空間的な分布が得られる.この高分解能X線回折法を試料の局所領域に対して適用したのが放射光ナノビームX線回折法となる.厚さ数十nmという薄膜からのX線回折を十分な強度で得るには,実験室のX線源では100μm程度のビームサイズが良いところであるが,放射光X線を使日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)えば,ビームサイズ100 nmオーダーのX線をプローブとして用いることができるため,局所領域の測定が可能である.ナノビームX線回折を詳しく知りたい方は教科2書)を参照していただきたい.ここでは,手法の説明は簡単にして,具体的にどのような試料を用意すれば良いかや,研究の実例を挙げて紹介する.2.逆格子マップ図1に対称反射と非対称反射の逆格子マップの模式図を示す.対称反射では,格子面の傾きと表面法線方向の格子面間隔(歪み)を分離して測定することができる.一方,非対称反射では表面法線方向だけでなく,面内の歪みの情報も逆格子スポットに含まれている.しかし,格子面の傾きk gk iQ z非対称反射図1対称反射と非対称反射の逆格子マップ.(Reciprocalspace maps for symmetrical and asymmetricaldiffractions.)51Q z面内の歪みΔq xk gΔq zΔq z2θQ2θk iQθ対称反射格子面の傾きQ xQ x