ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

水和したままのタンパク質や細胞を観る-クライオ電子顕微鏡法の発展-3.三次元クライオ電子顕微鏡法の可能性最後に,三次元クライオ電子顕微鏡法の将来の可能性を議論する.理想的な状況にあれば,電子顕微鏡法や三次元再構成法そのものに,原子分解能の構造を解くことを妨げる限界はない.実際,材料分野などでは,電子線トモグラフィー法であったとしても,原子分解能でその構造が解かれている.50)上述したように,生体試料を用いたクライオ電子顕微鏡法の分解能限界を生み出している主な原因は,電子線による試料の損傷である.一方で,有機分子であってもナノチューブなどの内部であればその動態が電子顕微鏡で観察されている.51)また,水中であっても両側をシリコン膜などで覆っていれば観察できたという事実も心強い.52)したがって,試料作製後,カーボン膜などで覆うなど,導電性や熱伝導性を上げる工夫はさらに分解能を上げる技術開発となりうるであろう.3一方で,電子線トモグラフィー法やin cell NMR法)により,細胞の中のタンパク質の構造が薄い水溶液の状態とは異なることが示されている.このことは薄層の水の中での振る舞いが必ずしも真の姿ではない場合があることも意味する.これに対する,1つの解は,光電子相関顕微鏡(Correlative Light and Electron Microscopy)である.53)光学顕微鏡のもつライブ性と凍結試料のもつ静的ではあるが,高分解能性,ブラウジング効果をもつ電子顕微鏡法を繋げる技術である.また,CEMOVIS法やFIB54)切削法(Focused Ion Beam Milling)などの切片化技術により,厚い試料条件で凍結した者を切片化することで観察することも有効であろう.加えて,STEM法による分解能が上がればなお,細胞や組織などの厚い切片内での振る舞いも明らかとすることができよう.55)いずれの場合にも,高速かつ高感度のクライオ・連続傾斜撮影・電子顕微鏡は必須となる.高速のCMOSカメラが電子顕微鏡向けに販売されるなかで,高速撮影に向けた技術開発も進んでいる.単粒子解析法が,ダイレクト検出カメラと情報処理技術の発展が相まって新時代を迎えたように,クライオ電子線トモグラフィー法もまた,いずれか早い時期にブレイクスルーを迎えることとなるであろう.そのためには,今後も継続的に,電子顕微鏡そのものの制御法の変化および周辺機器,超高速の検出器の開発,そして新たな情報処理技術の開発・適用を進めることが必須である.また,そうならねば,新しい細胞の世界は私達の眼前には現れることもなく,新たな生物学的知見が得られることもない.技術開発への手を緩めることはあってはならない.さらに,クライオ電子顕微鏡法は,水和した状態でかつ,ヘテロな構造をもつ試料に有効である.その点から,液晶などを含めた水系や混合系の材料分野の研究にも有効と言える.われわれもまた,水中にある合成脂質膜日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)の振る舞いを明らかにした.56)ほかにも,例えば,燃料電池のような材料の開発には,クライオ電子顕微鏡法の有効性が示されている.57)さらに,この三次元クライオ電子顕微鏡による画像を中心として,多様な手法の組み合わせ,広義の相関顕微技術を通して材料開発の現場や計測・分析のビッグデータ化も必要であろう.今後とも,異分野と切磋琢磨しながらも,生物学や新しい分野の発展に貢献していくことを期待する.文献1)S. B. Zimmerman and A. P. Minton: J. Mol. Biol. 222, 559(1991).2)R. J. Ellis: Trends Biochem. Sci. 26, 597(2001).3)D. Sakakibara, A. Sasaki, T. Ikeya, J. Hamatsu, T. Hanashima, M.Mishima, M. Yoshimasu, N. Hayashi, T. Mikawa, M. Waelchli, B. O.Smith, M. Shirakawa, P. Guntert and Y. Ito: Nature 458, 102(2009).4)M. Baba, M. Osumi and Y. Ohsumi: Cell Struct. Funct. 20, 465(1995).5)M. Adrian, J. Dubochet, J. Lepault and A. W. McDowall: Nature308, 32(1984).6)J. Dubochet, M. Adrian, J. Chang, J. Homo, J. Lepault, A.McDowall and P. Schultz: Q. Rev. Biophys. 21, 129(1988).7)I. Moraes, G. Evans, J. Sanchez-Weatherby, S. Newstead and P. D.S. Stewart: Biochim. Biophys. Acta. 1838, 78(2014).8)R. G. Efremov, C. Gatsogiannis and S. Raunser: Methods Enzymol.594, 1(2017).9)K. H. Jensen, S. S. Brandt, H. Shigematsu and J. J. Sigworth: J.Struct. Biol. 194, 49(2016).10)K. Mio and C. Sato: Biophys. Rev. 10, 307(2018).11)J. Frank, B. Shimkin and H. Dowse: Ultramicroscopy 6, 343(1981).12)J. Frank: Three-dimensional electron microscopy of macromolecularassemblies: visualization of biological molecules in their nativestate, Oxford University Press, New York(2006).13)D. J. de Rosier and A. Klug: Nature 217, 130(1968).14)R. G. Hart: Science 159, 1464(1968).15)W. Hoppe: Optik. 29, 617(1969).16)K. Murakami, T. Yasunaga, T. Q. Noguchi, Y. Gomibuchi, K. X.Ngo, T. Q. Uyeda and T. Wakabayashi: Cell 143, 275(2010).17)E. F. Pettersen, T. D. Goddard, C. C. Huang, G. S. Couch, D. M.Greenblatt, E. C. Meng and T. E. Ferrin: J. Comput. Chem. 25, 1605(2004).18)R. Henderson: Q. Rev. Biophys. 28, 171(1995).19)X. Li, P. Mooney, S. Zheng, C. R. Booth, M. B. Braunfeld, S.Gubbens, D. A. Agard and Y. Cheng: Nat. Methods 10, 584(2013).20)S. H. W. Scheres: J. Mol. Biol. 415, 406(2012).21)M. Liao, E. Cao, D. Julius and Y. Cheng: Nature 504, 107(2013).22)A. Merg, A. Bartesaghi, S. Banerjee, V. Falconieri, P. Rao, M. I.Davis, R. Paragani, M. B. Boxer L. A. Earl, J. L. S. Milne and S.Subramaniam: Cell 165, 1698(2016).23)O. Medalia, I. Weber, A. S. Frangakis, D. Nicastro, G. Gerisch andW. Baumeister: Science 298, 1209(2002).24)B. Turonova, K. M. Schur, W. Wan and A. G. Briggs: J. Struct. Biol.199, 187(2017).25)S. Aramaki, K. Mayanagi, M. Jin, K. Aoyama and T. Yasunaga:Cytoskeleton 73, 365(2016).26)F. K. Schur, W. J. Hagen, A. de Marco and J. A. Briggs: J. Struct.Bio. 184, 394(2013).27)S. Pfeffer, L. Burbaum, P. Unverdorben, M. Pech, Y Chen, R.Zimmermann, R. Beckmann and F. Foerster: Nat. Commun. 6, 840349