ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

安永卓生図4三次元再構成法の原理.(Principle of three-dimensional reconstruction techniques.)左カラムが実像.右カラムがフーリエ空間を示している.電子顕微鏡で写真を撮影すると,投影像が撮影される.そのフーリエ変換の画像は,三次元フーリエ空間の原点を通る断面(中央断面)となる.そのため,さまざまな向きの写真が撮影できれば,三次元フーリエ空間を埋め尽くすことができ,それをフーリエ合成することで,三次元像を再構成することができる.ば,そのままフーリエ合成すれば,実空間の静電ポテンシャルマップ(密度マップ)が得られることになる.このための数多くのソフトウェアが開発されている.44)2.3.1単粒子解析法単粒子解析法は,同一構造,もしくは,少数の異なる構造をもつ粒子が水中でさまざまな向きを向いていることを仮定し,その向きを決定しながら,三次元像を再構成する方法である.11,12)単粒子解析法のソフトウェア44)も各種存在しており,われわれもまたEosと呼ぶパッケージ33,45)の開発を進めているが,現在のデファクトスタンダードは,RELION 20)である.詳細を述べるには誌面が足りないので論文もしくは,解説したHP 45)に委ねるが,その骨子は次の点にあると考えられる.1従来,実空間で逆投影法を用いていた三次元再構成の手順をフーリエ空間での計算とし,かつ,GPGPUに対応したことから,実用的な速さで計算が終了するようになったこと.2SN比の見積もりを2D/3Dの間で自動化し,それを用いて,画像補正を行うウイナーフィルタ46)(理想的な画像復元アルゴリズム)を用い,デフォーカスによる劣化した画像を利用した三次元再構成を行うことで,オーバーフィッティングを抑えた構造解析が可能となったこと.3複数の構造を仮定した構造解析が可能になったこと.4 EM法(Expectation-Maximazation-Alogrithm)を用いて,投影角度と構造の自動的な選択が可能になり,ほぼ構造決定が自動化したこと.5使いやすいUI(User Interface)をもち,かつ,チュートリアルが整備され,初心者の導入が容易であること.などが挙げられる.ただし,初期三次元画像が必要である.RELION-3からは,得られた粒子画像から初期三次元画像も作り出すことができるようになったが,初期三次元画像の影響が大きいため,収束した結果が必ずしも正しいとは限らない.その画像が妥当であるかどうかの絶対的な評価はなく,いまだに議論が残っている.47-49)2.3.2電子線トモグラフィー法電子線トモグラフィー法では,ほぼ傾斜角が決定できることから,安定した再構成が可能である.しかし,傾斜角に限りがあることなどから,分解能の制限がある.三次元に再構成した後に,平均化するなどの操作により,情報不足を補い,高い分解能を得ることが可能である.26,27,38)2.3.3分解能の議論現在,クライオ電子顕微鏡法では,異なる画像セットからそれぞれ三次元像を再構成し,空間周波数ごとにそれぞれがどの位相関しているかを用いて,その分解能を推定している.49)しかし,これは三次元像が無矛盾であることを示しているだけであり,同じように収束した場合にはまったくことなる構造が出ていても高い分解能を表示する場合がある.47)また,投影像には奥行方向の情報がかけていることから,鏡像対称がでることには注意が必要である.分解能が充分上がれば,αらせんの巻きなどから明らかに判断できるが,ナノメータレベルの分解能では危険がある.現在報告されている構造の中にも再考を要する構造があると言われている.そこで,最近では,密度マップだけではなく,その元になった電子顕微鏡画像もPDBなどに提供されるようになっている.このことは,画像処理技術の開発を行う研究者にとっても有効であり,今後のさらなる発展が期待できる.48日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)