ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
- ページ
- 47/80
このページは 日本結晶学会誌Vol61No1 の電子ブックに掲載されている47ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol61No1 の電子ブックに掲載されている47ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol61No1
エピタキシャルグラフェンの構造と物性能である.一般に,ナノスケールのグラフェンデバイスにおいてトランジスタ特性に大きな制約を与えるのは,電極とグラフェンの接触抵抗であり,最も接触抵抗の低い接合は,グラフェンのエッジと電極が直接接合している場合である.5)この図中の状態ではまさに金属とのエッジコンタクトが自発的に実現されている.TiCをパターニングしてSiC上に形成することができれば,接触抵抗の小さい高性能グラフェントランジスタが実現できる可能性がある.4.3グラフェン/Si-N/SiCの作製SiC上グラフェンの移動度は,バッファー層のリモートフォノン散乱によって温度上昇に伴って低下する.そこで,界面構造を改質することで,グラフェンの移動度を向上させることができる.図10には,6H-SiC(0001)試料をアルゴン/窒素混合ガス中1,600℃で加熱した試料のHRTEM像と対応する構造モデルを示している.49)このような構造は,アルゴン雰囲気中や真空中で得たグラフェン試料では観察されない.したがって,窒素を含む構造であると考えられる.実際,図10aに示す構造モデルに基づいて,第一原理計算による構造最適化およびHRTEM像のシミュレーションを行ったところ,アンダーフォーカス・オーバーフォーカスともに実験結果とほぼ完璧な一致を示すことがわかった.したがって,界面ではSi-N層が形成されており,その上にバッファー層(0 th layer)が形成されたことになる.この試料をさらにアルゴン雰囲気中1,700℃で加熱すると,界面のSi-N構造層を維持したまま,バッファー層上に均一なグラフェンが形成された.期待したように,このグラフェン/Si-N層/SiC試料では,通常のグラフェン/SiC試料と比較して,室温での移動度が高いことがわかった.これは,Si-N界面の存在によって,バッファー層のリモートフォノン散乱の効果が低減していることを意味している.4.4バッファー層の急冷によるグラフェン作製SiC上グラフェンの界面改質として最も一般的な手法は,水素インターカレーションによるバッファー層のグラフェン化である.50)SiC上にバッファー層のみを形成した試料を,水素雰囲気中700℃程度で加熱すると,バッファー層とSiC最表面のSiとの結合が切断され,ダングリングボンドを水素が終端する.それにより,バッファー層がグラフェン化する.この手法ではグラフェンにほとんど欠陥を導入することなく基板との相互作用を大きく弱めることができるため,移動度は高く,温度上昇に伴う低下もほとんどない.しかしながら,爆発性の水素ガスを用いるため,より安全な手法が必要とされる.そこで,グラフェンの負の熱膨張を利用した新規手法を開発した.51)グラフェンは負の熱膨張係数をもち,一方SiC基板は正の熱膨張をもつ.したがって,グラフェン/SiC試料に急激な温度変化を与えると,界面での結合が物理日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)図10バッファー層/Si-N/SiCのHRTEM像および構造モデル.49)(HRTEMimagesandstructuralmodelofbuffer/Si-N/SiC.)(a)構造モデル.(b)アンダーフォーカス,(c)オーバーフォーカスで撮影したHRTEM像と対応するシミュレーション像.Intensity(a)1000 1500 2000 2500 3000Raman shift (cm -1 )(c)0.0E-E F (eV)-0.2-0.4-0.6-0.8-0.30.00.3k (A -1 ) //K-M1000 1500 2000 2500 3000Raman shift (cm -1 )的に切断され,基板との相互作用が弱まると考えた.実際には,バッファー層/SiC試料を真空中900℃程度に加熱した状態から,試料を-196℃の液体窒素中に投入して急冷した.図11には,急冷前後でのラマンスペクトルおよびARPESスペクトルを示している.急冷前は,グラフェン特有の2Dバンドやバンド分散が観察されないのに対して,急冷後にはシャープな2Dバンドや明瞭なDiracコーンが観察される.これらの結果は,急冷処理によってバッファー層がグラフェン化したこと,ならびにグラフェンが高品質であることを意味している.並行して行ったHRTEM観察の結果,急冷後の試料ではグラフェンが基板から離れていることが確認された.このバッファー層急冷グラフェンでは,温度上昇に伴う移動度の低下が起こらないこともわかり,界面制御,ひいてはグラフェン作製の新たな手法として注目されている.IntensityE-E F (eV)(b)(d)0.0-0.2-0.4-0.6-0.8-0.30.0k (A -1 ) //K-M図11バッファー層急冷グラフェンのラマンスペクトルおよびARPESスペクトル.51)(Raman and ARPESspectra of rapidly-cooled graphene.)(a)バッファー層,(b)急冷グラフェンのラマンスペクトル.(c)バッファー層,(d)急冷グラフェンのARPESスペクトル.0.341