ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

乗松航ナノリボンでは,バンドギャップの導入に加え,散乱のないバリスティック伝導が実現される興味深い系として注目を集めている.一方でC面の成長機構については,Si面とは大きく異なり,ステップだけではなくテラス上からも分解・核生成が生じ,その後表面上を四方に成長していく.43)これらの実験結果に対して,理論計算の立場からも成長機構が議論されている.Si面では,テラス上ではグラフェンが成長しづらく,ステップ付近では核生成・成長が起こりやすいことが,量子力学分子動力学計算によって報告されている.44)一方C面では,ステップが存在しなくともグラフェン成長が生じるものの,基板表面との相互作用が弱いことが示されている.45)このように,グラフェン成長機構は実験・理論の両側面から,定性的に一致した見解が得られている.4.エピ・グラフェンの界面制御グラフェンの電子状態は,基板との界面構造によって著しく影響を受ける.逆に言えば,界面によってグラフェンの電子状態を制御することが可能である.ここでは,エピ・グラフェンの界面制御に関する実験結果をいくつか紹介する.4.1グラフェン/B 4Cの作製SiCの熱分解によりグラフェンが成長するという事実は,シリコンと比較して炭素が昇華しにくいという性質を利用している.これは,ほかの炭化物の熱分解でもグラフェンが形成できることを示唆している.そこで,炭化ホウ素(B 4C)の熱分解によりグラフェンを形成した.B 4Cは,B 12クラスターとC原子鎖からなる特徴的な結晶構造を有している.B 4C微粒子を真空中1,700℃で加熱した試料のHRTEM像を図8に示す.46)図から,多層グラフェンがB 4C表面上に成長していることがわかる.特に,B 4C(003)面では,グラフェンがエピタキシャル成長することがわかった.さらに,同時に測定したグラフェン領域でのEELSスペクトル図8dからは,Bエッジのピークが明瞭に観察される.その特徴は,σ*だけではなくπ*のピークも観察されることである.これは,ホウ素がsp 2結合を有していることを示しており,グラフェン中の炭素をホウ素が置換して存在していることを示唆している.すなわち,ホウ素ドープグラフェンが形成されている.これは,ホウ素を多量に含む炭化物であるB 4Cを分解した際に,雰囲気中にホウ素が多く存在するため,グラフェン成長中にその一部が取り込まれたためであると理解される.今後の展開として,SiC単結晶基板上に形成したB 4C薄膜をグラフェン化することで,大面積高濃度ホウ素ドープグラフェンを形成することができる可能性がある.4.2グラフェン/TiC/SiCの作製同様に,炭化チタン(TiC)からのグラフェン成長も行った.ここで,TiCはNaCl型結晶構造を有しており,(111)面におけるTi-Ti原子間距離は3.06 Aであり,六方晶SiCの格子定数a=3.08 Aときわめて近い.そこでまず,6H-SiC単結晶上にTiCをエピタキシャル成長させ,その分解によるグラフェン成長を試みた.図9は,_6H-SiC(0001)面上TiC薄膜,およびその熱分解によって成長したグラフェンのHRTEM像である.47)興味深いことに,TiCはSiCのSi面上にはエピタキシャル成長せず,C面上にのみ(111)TiC面がエピタキシャル成長した.これは,C面の最上部に存在する炭素と,TiC中のチタンあるいは炭素が結合しやすいことによると考えられる.48)このように形成されたTiC薄膜の熱分解によって,基板全面に均一なグラフェンが成長することもわかった.さらに,図9bに示すように,部分的にTiCを残すことも可図8グラフェン/B 4CのTEM像およびEELSスペクトル.46)(TEM image and EELS spectrum of graphene onB 4C.)グラフェン/B 4Cの(a)TEM像,(b)C原子マッピング,(c)B原子マッピング,(d)グラフェンおよびB 4C領域から得られたEELSスペクトル.図9グラフェン/TiC/SiCのHRTEM像.47)(HRTEM imagesofgraphene/TiC/SiC.)(a)SiC上エピタキシャルTiC薄膜のHRTEM像.(b)TiC薄膜の熱分解により作製したグラフェンのHRTEM像.40日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)