ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

エピタキシャルグラフェンの構造と物性図6グラフェンの積層構造を示すHRTEM像.37)(HRTEMimages showing the stacking sequence of multilayergraphene.)(a)4H-SiC(0001)面上5層グラフェン(挿入図はABC積層グラフェンによるHRTEMシミュレーション像),(b)6H-SiC(0001)面上6層グラフェン,(c)6H-SiC(0001 _)面上6層グラフェン,(d)6H-SiC(0001 _)面上多層グラフェン.図の右側には,それぞれに領域におけるFFTパターンを示している.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.および(0001 _)面(C面)上での多層グラフェンのHRTEM像を示す.37)どちらの面においても,複数層のグラフェンが形成されている.図から,図6aおよび図6bのSi面では黄色い丸で示すグラフェン層間の明るい斑点状コントラストが,赤矢印で示すように直線的に配列しているのに対し,図6cのC面では不規則な配列になっていることがわかる.図6a中には,ABC積層のHRTEMシミュレーション像を挿入しており,像のフーリエ変換(FFT)パターンも含めて実験結果はABC積層として非常によく説明できる.したがって,Si面上多層グラフェンはABC積層を選択的に形成する.Si面上のABC積層に関しては,ARPES測定によっても同定されており,特有の電子構造をもつことが明らかになっている.38)一方,C面上多層グラフェンは,決まった積層秩序をもたない.また,C面上グラフェンの界面に関しても,図6cおよび図6dのように,SiCと密着している場合もあれば界面のアモルファス層が存在する場合もあり,一義的に定義できない.C面ではバッファー層は存在しない.このように,C面上グラフェンは基板との,あるいは層間の相互作用が弱い.これを逆用した高移動度やvan Hove特異点などの興味深い物性も報告されている.39)3.3エピ・グラフェンの成長機構グラフェンのエレクトロニクス応用展開のためには,日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)図7Si面上グラフェンの成長機構.40)(Growth mechanism ofgraphene on(0001)Si-face.)大面積グラフェンを成長する技術が不可欠であり,そのためには成長機構を原子レベルで詳細に明らかにする必要がある.ここでは,Si面およびC面上でのグラフェン成長機構について述べる.図7は,Si面でのグラフェン成長初期段階のHRTEM像である.40)図からわかるように,SiC表面に存在するステップにおいて,Si原子が優先的に昇華し,残存C原子が原子層の核を,ステップを覆うように形成する.その後,上のテラス上へと水平成長し,隣のステップの核と合体する.ただし上述したように,最初に形成される炭素原子層は,SiC最表面のSiとの結合を有するバッファー層である.バッファー層形成後も,バッファー層の下においてステップを起点とする分解・成長は進行する.それと同時にバッファー層のSiC最表面との結合は切断され,最初に形成されたバッファー層はグラフェンとなる.このように,Si面上のグラフェンはステップを起点としたlayer-by-layer方式で成長し,最終的にはステップを覆うように全面に形成される.したがって,大面積で均一なグラフェン成長のためには,ステップの密度や高さなどの表面形態を精密に制御する必要がある.41)一方,ステップを起点とした成長であるという事実,加えて多数のステップからなるファセット面上ではバッファー層がないという事実は,ファセットでは本質的にグラフェンの層数が多いことを意味している.例えばSiC表面全面に単層が形成された場合,テラス上ではバッファー層として振る舞うため電気伝導には寄与しないが,ファセット上ではグラフェンとなり電気伝導に寄与する.すなわち,ファセットではグラフェン・ナノリボンが形成される.42)ファセットにおけるグラフェン・39