ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
乗松航その範囲内において均一な単一方位単層グラフェンが形成されていることを示している.(e)ラマンスペクトルからは,グラフェンの特徴であるシャープなGおよび2Dバンドが見られる.SiC上グラフェンにおいて,半値幅が40 cm-1を下回る2Dバンドは,単層グラフェンの存在を表している.2層以上では,2Dバンドの半値幅が大きくなる.そのピーク位置は2,710 cm-1程度であり,グラフェン本来の値2,670 cm-1より高波数側に位置している.これは主に,グラフェンが圧縮歪みを有していることに由来する.30)1,300~1,600 cm-1付近に位置する複数のブロードなピークは,バッファー層に起因する.31)Hall効果測定の結果図3fからも,グラフェンは電子ドープされていることがわかり,その電子濃度は約1×10 13cm-2である.低温での移動度は約1,800 cm 2 /Vsであり,温度上昇に伴って低下する.この低下は,バッファー層のリモートフォノン散乱によると理解されている.32)また,上述したh-BN上グラフェンと比較して移動度が低い最大の理由は,高濃度に電子ドープされているためである.一般に,極性基板上グラフェンの移動度は,キャリア濃度nに対して1/√nに比例することが知られている.33)その関係に従うと,電子濃度1×10 13 cm-2での移動度1,800 cm 2 /Vsは,キャリア濃度を1×10 10 cm-2とすれば移動度は約56,000 cm 2 /Vsになることを示しており,エピ・グラフェンの品質の高さを暗示している.実際,キャリア濃度6×10 9 cm-2では,移動度が約70,000 cm 2 /Vsに達することが報告されている.34)3.2エピ・グラフェンの構造制御と評価本節では,エピ・グラフェンの構造制御とその評価について述べる.まず,グラフェンの形成されるSiC{0001}表面には,Si原子終端の(0001)面(Si面)とC原_子終端の(0001)面(C面)が存在する.ここまでは,主にSi面の結果を示してきた.両者に成長するグラフェンには特徴に大きな差が生じるが,均一なグラフェン形成には主にSi面が用いられる.図4に,SiC(0001)面上1層,2層,3層,および多層グラフェンのHRTEM像を示す.12)これらの試料は真空中1,300~1,500℃で成長させたグラフェンの結果であるが,高純度アルゴン中加熱では分解が抑制されるため,グラフェン化温度はより高温となる.具体的には,単層グラフェンは,アルゴン大気圧フロー中では1,700℃程度で均一に成長する.28)このように,最も直接的な層数の観察は,HRTEM法によって行うことができるが,界面の断面観察は破壊的な実験であることから,非破壊の層数および層数分布観察も並行して行われる.その例として図5に,AFM位相像,走査型電子顕微鏡(SEM),および低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)観察の結果を示す.35),36)図5b AFM位相像では,表面物質の粘弾性が位相差に対応するため,SiC,バッファー層(0L),1層グラ図4図51,2,3,および8層グラフェンのHRTEM像.12)(HRTEMimages of 1, 2, 3, and 8 layers of graphene on SiC.)層数分布の測定方法.35),36)(Methods for determininggraphenethicknessdistribution.)AFMによる(a)形状および(b)位相像.(c)インレンズSEM像.(d)LEEM像.(e)LEEM像中の対応する場所における電子線反射率.(f)層数分布.フェン(1L),2層グラフェン(2L)の順にコントラストが明るくなる.同一試料の図5c SEM像中では,二次電子の放出効率がSiCやグラフェンで異なるため,SiCで最も明るく,層数が増えると暗くなる.これらの手法は,相対的な層数分布測定法として用いることができる.一方LEEMでは,グラフェンの層数が,反射率図5eにおける加速電圧0~5 Vの範囲での谷の数と一致することから,図5fのように層数を絶対的に判定可能である.これらの手法やラマン分光測定を組み合わせることで,均一なグラフェン試料が得られたかどうかを判断し,その後の実験に用いることができる.グラフェンとSiC(0001)面の界面構造については,前節で述べた.ここでは,多層グラフェンの積層構造について述べる.一般に,グラファイトにおける積層構造は,AB積層(Bernal積層)が最安定であり,ABC積層(Rhombohedral積層)やAA積層,乱層積層は,天然にはわずかにしか存在しない.図6には,SiC(0001)面(Si面)38日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)